為替政策報告書の指摘が意味すること

 報告書は「為替レートを操作する目的で投資すべきではない」と指摘しているが、政府・日銀・GPIFがそのような意思表示をしたことはない。ただ、事実としてGPIFの基本ポートフォリオにおける外貨建て資産の割合は、この10年で倍になっている(図表②)。これは確かに目立つ。

【図表②】

 過去10年間を振り返ってみれば、2014年10月31日にそのような疑惑がかなり高まったことがある。

 この日はハロウィン緩和とGPIFのポートフォリオ変更発表が重なった日だ。この時、GPIFの基本ポートフォリオでは外貨建て資産が23%から40%へ大きく引き上げられ、その分、国債が60%から35%へ引き下げられた。

 同じタイミングで、日銀は年間の国債購入額を10兆~20兆円引き上げることを決定している。日銀が国債購入を増やすタイミングでGPIFが国債購入を減らす判断を下したわけで、とりわけ海外市場参加者からは年金基金を活用した相場誘導に映った可能性が高い。

 もちろん、追加緩和による円金利低下とGPIFによる外貨建て資産購入の増加が重なったことで急速に円安・ドル高が進んだことは言うまでもない。

 当時、GPIFの三谷隆博理事長は「同じ日になったのは全くの偶然」と述べ、安倍首相もGPIF改革について「株価を上げるため(の見直し)ではない」と述べたが、2013年4月以降、隆盛を極めていたリフレ政策の状況を思えば、猜疑心が残ったのは事実である。

 もっとも、当時の安倍首相はこうした決定が下される以前から「将来の安定的な年金給付に向け、デフレ脱却後の経済・運用環境に対応して、基本ポートフォリオも機動的に見直すことが必要(2014年10月30日)」と述べていた。

 ハロウィン緩和から丸10年が経過し、日本経済は明らかにデフレとは言いがたい状況になっているが、当時はそうではなかった。デフレを前提とすれば自国通貨上昇が理論的に正当化されるが、インフレを前提とすれば自国通貨下落(外貨上昇)が理論的に正当化される。

 結果論だが、その後の経済・金融情勢を踏まえれば、当時の基本ポートフォリオ変更はある程度は賢明なものだったと言える。

 ただ、円安が実質実効為替相場(REER)で「半世紀ぶりの安値」にまで至った今、同じペースで外貨建て資産に投資しても、その投資が報われるかどうかは定かではない(図表③)。その意味で報告書の指摘も傾聴に値する部分もあるだろう(他国の年金資産運用方針に干渉される筋合いはないという論点はさておき)。

【図表③】