1.「デンマーク・モデル」に関連する事象
以下、「デンマーク・モデル」に関連する事象について時系列に沿って述べる。
①2024年5月15日:米国がウクライナに20億ドルの追加軍事支援を発表
キーウを訪れていたアントニー・ブリンケン米国務長官(当時)は、ウクライナに総額20億ドル(当時の換算レートで約3100億円)の資金を提供する新たな軍事支援を発表した。
ウクライナの防衛産業基盤を強化するための投資や、他国からの武器の購入に充てる「防衛事業基金」を設けるという「前例のない」(ブリンケン氏)支援の形をとる。
事業基金は、需要に合わせた武器を米軍の在庫から速やかに戦場に届ける通常の軍事支援とは異なり、ウクライナが必要な武器を自力で生産し、将来的には他国の分も生産できる能力をもつための投資などに使われるという。
②2024年7月11日:デンマーク、ウクライナ製自走榴弾砲「ボフダナ」の18台調達用資金を拠出
デンマークは、ウクライナ防衛戦力のためにウクライナ製自走榴弾砲「ボフダナ」の18台調達用資金を拠出した。
ウクライナ国防省がソーシャルメディア「X」アカウントで発表した。
③2024年10月2日:ゼレンスキー大統領が欧米企業に追加投資呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領は、欧米の防衛企業を招いたフォーラムで演説し「国内で生産できる無人機は年間400万機に上る」と述べて自国の防衛産業が急成長しているとしたうえで、軍事侵攻を続けるロシアに対抗できるよう欧米の企業にさらなる投資を呼びかけた。
このフォーラムには、国内外から280社以上が参加した。
④2024年10月22日:米国防長官、ウクライナ防衛産業界への8億ドル直接投資を表明
ロイド・オースティン国防長官(当時)はゼレンスキー大統領と会談し「ウクライナ防衛産業界に8億ドルを投資してドローンを提供する」と伝えた。
米産業界の利益や雇用に直接結びつかない支援に資金を拠出するということ自体が異例だった。
これは、実現するか不確かな「長距離兵器の制限解除」や「新たな長距離兵器の供給」よりも堅実なアプローチである。
⑤2024年11月19日:ゼレンスキー大統領とデンマークのフレデリクセン首相との会談
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相はウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。
ゼレンスキー氏は、「デンマークは本当に頼れる友人だ。私たちは一緒にウクライナ人の命を守っている。私たちは一緒にウクライナのための武器を生産している。そして私たちは一緒に、この戦争によって生じた破壊の後の復興の作業をしている」と強調した。
また、ゼレンスキー氏は、ウクライナとデンマークが始めたモデルには、すでにすべての北欧諸国が合流していると指摘した。
そして同氏は、「10億ドル以上がパートナー国によって私たちの分野に投資された」と伝えた。
フレデリクセン首相は、ウクライナの防衛産業への投資は、残虐なロシアの侵略と対抗するために絶対に不可欠なものだと指摘した。
⑥2024年11月27・28日:北欧バルトサミット、ウクライナの兵器増産への投資強化で合意
地理的にロシアに近く、その脅威を共有する北欧やバルト3国の首脳らによる「北欧バルトサミット」が2024年11月27、28の両日、スウェーデンで開催された。
ポーランドも参加し、ウクライナの兵器増産への投資など支援を増強することで一致した。
⑦2025年2月24日:欧・バルト諸国、ウクライナ防衛産業への投資を増加すると表明
キーウを訪問したフィンランド、ラトビア、リトアニアの大統領と、デンマーク、エストニア、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの首相が2月24日付共同声明を発出した。
声明では、これらの国々はロシアによるウクライナへの全面的軍事侵攻を明確に非難した。
また、この戦争の結果は、欧州・大西洋の安全保障にとって根本的かつ長期的な影響を及ぼすだろうと指摘した。
そして、「私たちは、防空手段や弾薬などを含む、ウクライナへのさらなる支援の提供を約束する。私たちは、ウクライナの防衛産業により多くの投資を行うことを誓う。そして、拡張可能な旅団規模の部隊のための装備と訓練を提供することを誓う」と強調した。
(出典:ウクルインフォルム通信「私たちはウクライナ支援を今後も強化していく」2025年2月25日)
⑧2025年3月3日:域内のウクライナ支援機運の高まり受け、欧州で防衛関連株急騰
米国がウクライナへの支援を停止する懸念が強まる一方、欧州首脳らがウクライナへの支援を強化する方針を示したことを受け、欧州の防衛株は2025年3月3日の取引開始直後から急騰した。
ストックス欧州600指数は一時1.4%上昇し、特に防衛関連株が大幅に買われた。
一時、ドイツのラインメタルは16%、スウェーデンのサーブは15%、フランスのダッソー・アビアシオンは19%上昇した。
⑨2025年04月25日:米国、プーチン大統領にウクライナの軍や防衛産業の保持を要求
米国は、ロシアとウクライナの和平合意の一環として、ロシアがウクライナの独自の軍隊と防衛産業を持つ権利を認めるようプーチン大統領に求めると、ブルームバーグが関係者の話として伝えた。
また、トランプ政権は、ウクライナのザポリージャ原発の返還、ウクライナがドニエプル川を渡る通行権の確保、およびハリコフ州でロシアが占領している土地の返還をロシアに求めている。
(出典:ブルームバーグ通信「米国、ウクライナの軍隊保有を認めるようロシアに要求へ」2025年4月25日)