(2)国産自走榴弾砲「ボフダナ」の製造能力
本項は「Forbes JAPAN」の「ウクライナが国産榴弾砲の生産増強 自走式を月に40両、ロシアと同水準」(2025年4月18日)を参考にしている。
ウクライナ国防産業評議会のイーホル・フェディルコ事務局長は2025年3月のインタビューで、ウクライナは現在、「ボフダナ」を月に40両生産する能力があることを示唆した。
ウクライナがボフダナの月産数を40両まで増やしたのは、他国の榴弾砲の生産能力と比較すると大変な偉業だということが分かる。
ドイツのキール世界経済研究所の報告書によれば、防衛産業が確立し、巨額の軍事予算を計上しているロシアも、榴弾砲の月産数は同じく40門程度と推定されている。
フランスによるカエサル自走榴弾砲の月産能力は8両、ドイツによるPzH(パンツァーハウビッツェ)2000自走榴弾砲の生産能力は年間でわずか5〜6両にとどまる。
英国のBAEシステムズは、「M109A7」自走榴弾砲を米軍に216両納入するのに54か月かかったので、月産にすれば4両ということになる。
ウクライナはボフダナの現在の生産能力を実現するために、国内の製造能力を活用して部品生産を合理化した。
ネックになったのは車台だった。
ボフダナはもともと国産の「KrAZ-6322」6輪駆動トラックの車台を用いていた。
生産加速と単一サプライヤーへの依存回避のため、メーカーは別の車台として同じく国産の「ボフダナ-6317」6輪駆動トラック(ベラルーシの「MAZ-6317」のウクライナ版)やチェコ製「テトラ815-7」8輪駆動トラックを採用した。
このほか、牽引式のボフダナも導入した。
ところで、自走榴弾砲をいくら生産しても砲弾がなければ無用の長物になってしまう。
ここでウクライナへの砲弾の供与について簡単に述べて見たい。
2022年は、ウクライナ軍の砲撃が1日に6000発を超えることがほとんどなかったのに対し、ロシア軍は多いときで1日に3万2000発を超える砲撃を行っていたといとされる。
ウクライナ軍は2023年冬から2024年春にかけて砲弾不足が深刻化し、最前線の東部ドネツク州などで後退した。
欧州連合(EU)は、2024年3月末までに100万発の弾薬をウクライナに提供する計画だったが、EU域内の生産能力が追いつかず、半分程度にとどまる見通しだった。
そのような状況の中で、チェコのペトル・パベル大統領が2024年2月の「ミュンヘン安全保障会議」で、「世界中で砲弾や装備を探し、ウクライナに迅速に届けるために、米国(の支援)を待たず、今行動すべきだ」と訴えた。
これは、「チェコの榴弾砲イニシアティブ」と呼ばれる。
同イニシアティブは当初、チェコ政府が世界各国の軍や砲弾の製造会社と交渉し、欧州各国からの資金面の支援も得て、ウクライナへ80万発の砲弾を確保して供給する取り組みであったが、その後も継続している。
チェコのパベル大統領は2024年3月7日、ロシアによる侵攻を受けているウクライナに80万発分の砲弾を供給する計画に必要な資金を確保したと明らかにした。
そして、チェコは2024年4月、非欧米諸国から砲弾を買い付け、第1弾の5万発から10万発の砲弾をウクライナに供与した。
これにより、ロシア軍とウクライナ軍の砲撃量の差は2024年初めには7対1だったが、4月時点で5対1に縮まったとされる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月下旬、将来的に反撃に出るためには砲撃量の差を3対1~3対1.5程度にする必要があると述べていた。
チェコのリパフスキー外相は2025年4月3日、同国が主導して進めているウクライナへの砲弾供与計画について、新たにカナダ、ノルウェー、デンマーク、オランダから追加の資金協力が得られたと明らかにした。
ゼレンスキー大統領は2024年5月17日の会見の中で、「この数年の戦争で初めて全旅団から『砲弾がない』と不満を言われなくなった」と述べて砲弾不足の解消を示唆した。
ちなみに、ロイター通信の調査によると、北朝鮮が2023年9月から2025年3月の1年半余りの間に400万から600万発の砲弾をロシアに供給したとされる。