なぜADHDの人がASDと誤診されるケースが多いのか?
岩波:社会の変化が大きいと感じています。
日本の話になりますが、一部の中学校、高等学校は受験校化して、子どもに対する負荷が著しく増えました。
社会においては多様性の尊重が叫ばれてはいるものの、実際にはルールによる管理が厳格化しています。例えば、昔は書類なんて後からまとめて出せばよかったのかもしれません。勤怠の管理もいい加減でした。
そういったところが、今では電子化されて細かくチェックされるようになりました。常に、決まりを守ることを強いられるようになったのです。
そのような点で、自分なりのルールを持っている発達障害の人が学校や社会に対して「不適応」を起こしやすくなったのではないかと思います。
──高学歴の人、知的レベルが高い人で発達障害の専門外来を受診する人が増えているという実感はありますか。
岩波:発生数自体は増えていないと思いますが、受診者はこの10年で相当数増えました。特に、高学歴、知的レベルが高い人は自ら情報にアクセスして自身の症状について調べることができるので、より受診する傾向が多くなるのだと思います。
昨今では、新患の枠を設ければ設けるほどどんどん埋まっていくという状態です。今回の書籍では36人の症例を紹介しましたが、事例を選ぶのに困ることはありませんでした。
──今回の書籍では、岩波先生のところにたどりつく以前に他の病院やクリニックを受診し、ADHDなのにASDと診断された、ASDなのにADHDと診断されたという事例が多く紹介されていました。なぜ、ADHDとASDはしばしば誤診されてしまうのでしょうか。
岩波:よくあるのは、ADHDの人がASDと誤診されるケースです。
対人関係が極端に苦手で、特定の物事に強いこだわりを示すASDは、昔はアスペルガー症候群と呼ばれていました。一方、かつての児童精神科や小児科で診断の対象となっていた発達障害は現在のASD、特に重症の自閉症です。
したがって、発達障害を専門とする医師の多くは、自閉症、あるいはASDを専門としています。そのため、発達障害の患者に対してASDの診断をしやすい傾向があるように感じています。
ADHDとASDでは対処法や薬物療法はかなり異なります。誤診によって正しい治療にたどり着かないという点は大きな問題です。