なぜ高学歴・高知的レベルの発達障害に焦点を当てたのか?
──今回の書籍では、高学歴、ないしは知的レベルが高い発達障害の人たちに焦点を当てていました。このテーマで本を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
岩波:他の精神疾患、たとえば、うつ病の場合は、2~3割程度の患者さんは慢性化してしまいます。さらに、回復したとしても完全にもとのレベルに戻ることは難しく、病前の8~9割程度が限界であることが多々あります。
ところが、発達障害、特にADHDの人はしっかり治療をすれば、もとの水準よりも高い能力を発揮することがあります。これは不思議な特性です。もちろん、一度社会復帰をしたとしても、またドロップアウトしてしまうこともあります。
けれども、そういった山あり谷ありの人生はとても興味深いものがあります。臨床医として、非常に心を揺さぶられるものがありました。
──中学校や高校で集団生活に不適応になるADHDやASDの例を挙げ「現在の学校の仕組みにおいては、こういった子供たちを『救済』することは容易ではない」「教育制度の仕組みそのものを見直す時期にきていると感じられる」と書かれていました。
岩波:日本では、初等教育でも1クラスの児童数は30~35人前後が一般的です。欧米諸国では、小学校であれば、だいたい1クラスの児童数は20人程度と少人数が基本です。20人であれば、児童に対する個別対応も可能です。
日本は教員不足の問題が深刻化している中でも、教育現場の先生方はできる限りのことをしていると思います。とはいえ、30人から35人のクラスで一人一人に対応するのは、さすがに無理があります。
発達障害などによって適応が難しい子どもに対して、教員がきちんとかかわれるようにするためには、初等教育のクラス人数を欧米並みに減らすことが理想です。
それが難しいのであれば、現在のスクールカウンセラーの制度を見直す必要があるでしょう。現状では、非常勤のスクールカウンセラーが週1回程度勤務していることがほとんどです。それでは到底足りません。
スクールカウンセラーを正規職員として配置することが難しい事情があるのかもしれませんが、せめて常勤に近いかたちで勤務してもらうなど、先生たちの負担を軽減する仕組みが必要だと思います。
──現在では、ASDやADHDをはじめとする発達障害の存在が広く知られるようになり、学校でも「そういう子供がいる」という認識のもと、教育現場が回り始めているように感じています。