「発達障害への理解は、最終的には教育に行き着く」

岩波:障害に対する認識が深まってきたこと自体は、とても良いと思います。一方で、発達障害が差別の対象となるような場面も出てきているのではないかという懸念があります。

 私としては、発達障害の診断があろうがなかろうが、学校生活において問題のある行動がない限りは、本人も周囲の人たちも、障害を意識する必要はないと考えています。

 大事なことは、学校でも会社でも、障害由来の不適応な行為が見られたときに、どのような対応をするかという点にあります。

 すべての教員、社員が、発達障害に対して十分な知識を持つことは現実的に難しいでしょう。だからこそ、学校であれば担任の教員や養護教諭、スクールカウンセラー、会社であれば管理職や人事部門、産業医など、支援機能を持つべき役職にある人が、発達障害に対して基本的な知識を学び、対応していくことが重要だと思います。

──現時点で、発達障害の人が社会で生きていく上で、最も大きな課題はどのようなことですか。

岩波:「発達障害」と一言に括っても、その症状は非常に多岐にわたります。たとえば、ASDの人は対人関係が苦手なことが多く、そうした特性に理解のある職場は徐々に増えてきています。

 一方で、ADHDの人は、生活自体は健常者にかなり近いため、社会の理解はもちろんですが、本人が自身の特性や障害をきちんと把握していることが重要です。

 発達障害への理解は、最終的には教育に行き着くと私は考えています。海外では精神疾患に関する教育が義務教育の場で実施されているようですが、日本はまだまだです。最低限の知識を学校で学ぶ場を設けることが必要だと思います。

岩波 明(いわなみ・あきら)
昭和大学特任教授
1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部を卒業。東京大学医学部精神医学教室助教授などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、2024年より現職。ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。