この女性に見られた典型的なADHDの症状

岩波:大学に入って一人暮らしを始めたものの、掃除や片付けが全くできず、ゴミ屋敷の部屋に公共料金も払わずに埋もれていました。見かねた母親が実家に連れ戻し、発達障害の専門外来を受診しました。子どもの頃から忘れ物が多く、片付けが苦手で注意散漫だったそうです。典型的なADHDです。

 早速ADHDの治療薬の服用を開始したところ、生活リズムや落ち着きのなさに改善が見られました。大学は退学しましたが、アルバイトもできるようになり、やがて障害者雇用で工業用の工具の製造会社に正社員として採用されました。

 もともとプログラミングやシステムが好きだったため、独学でさまざまなソフトウェアの勉強をし、会社側も彼女に対してIT関連の社外研修に参加する機会を与えました。

 やがてその会社で自社製品の通信販売サイトを立ち上げようという話になりました。社員の中で、ホームページの、しかも通信販売サイト構築の知識を持っている人はいません。そこで彼女は自ら手を挙げ、独学で勉強しながら1週間余りで通信販売サイトを自力で作り上げたのです。

 通信販売事業は大成功を収めました。会社の売り上げに貢献したため、今では社内でかなり自由に振る舞える立場になったようです。基本的には週5日の出社が義務付けられている会社ですが、彼女は週の半分程度のリモート勤務を認められています。

 最近では後輩の指導を会社からするように言われるようになり、それが辛いと言っていますが、それ以外では仕事はおおむねうまくいっています。

 プライベートでは、一度結婚しましたが、離婚してシングルマザーとして子どもを育てています。彼女の母親が、家事や片付けなど彼女の苦手な部分をかなりフォローしているようです。

──彼ら、彼女らは、どのような経緯で発達障害の専門外来にたどり着くのでしょうか。

岩波:自分自身で生活の中で不便さを感じたり、親が子どもが学校に対して適応できていないと気付いて受診に結び付いたりすることが多いと感じています。

 不登校も受診のきっかけの1つです。ADHDの人は、昼夜のリズムが逆転しがちです。思春期頃からその症状が顕著に現れる人が多く、不登校になってしまうことがあります。ASDの場合は、対人関係が苦手なため、中学どころか小学校から不登校になることもあります。

 また、社会人の場合は会社でのミスが多い、作業が遅いという顕著な不適応があり、自分自身で発達障害について調べたり、上司に受診を勧められたりするパターンが多いようです。

──かつても発達障害を持つ個人は存在しており、一般人として暮らしてきた、とありました。なぜ、昨今、発達障害の人の「ドロップアウト」が目立つようになったのでしょうか。