ルーマニア発の通貨安の波が中東欧を襲うリスク

 今回のやり直しの大統領選でシミオン氏が任期を得た大きな理由として、隣国ウクライナへの支援に対するルーマニア国民の不満があると指摘されている。

 2022年2月の開戦から丸3年が経過し、国民の間でウクライナ疲れが蔓延しているようだ。それよりも自国を優先すべきであるというシミオン氏の強い主張は、確かに説得力があるだろう。

 シミオン氏のような右派政治家は、政治的方便としてトランプ大統領を引き合いに出す。こうした路線はある程度までは国民の支持を得るが、同時に投資家から厳しい評価を突きつけられる。

 当の米国が「トリプル安」であり「ドル不安」というかたちでそれを体現しているのに、ルーマニアだけがそうした評価から免れることなどできはしない。

 シミオン氏が5月18日の決選投票で勝利すれば、翌19日のルーマニアの金融市場は大荒れの展開となることは必至である。レウ相場にはさらなる下振れ圧力がかかるため、中銀が実質的な固定相場制を維持できるかどうか分からない。変動相場制への移行を余儀なくされれば、通貨は暴落し、さながら通貨危機の様相を呈することになるだろう。

 さらに懸念されることは、こうしたルーマニア発の通貨安の波が独自通貨を維持している中東欧諸国に波及することだ。特に隣国ハンガリーの通貨フォリントは、同国のマクロ経済のインバランスが深刻であることに加えて、オルバン・ビクトル首相による強権的な政権運営が長期化していることから、ルーマニアの連れ安となる公算が大きい。

 程度の差はあれ、チェコやポーランドも、ルーマニア発の通貨安の影響を被ることになるだろう。中東欧諸国が一様に国際収支不安に陥る展開も十分に意識されるところである。