ルーマニアのトランプの下で懸念されるバラマキ路線

 投資家は、これまでの親EU(欧州連合)政権の下でさえ悪化し続けていたルーマニアの「双子の赤字」(財政赤字と経常収支赤字)が、新政権の下でさらに悪化することを懸念している。

【図表2 ルーマニアの双子の赤字】

(注)12カ月後方移動平均 (出所)ルーマニア国立銀、ルーマニア財務省

 ルーマニアの「双子の赤字」は悪化に歯止めがかかっておらず、EUの執行部局である欧州委員会からも問題視されており、その是正が勧告されて久しい。

 政府と中銀が引き締め政策を行い、需要を抑制すれば「双子の赤字」は改善する。しかし変動相場制の下では、需要を抑制せず「双子の赤字」が放置されている国の通貨はまず下落する。そして通貨が下落することで輸入が抑制される一方、輸出が増えるために貿易赤字が縮小し、経常収支赤字が是正されるというメカニズムが働く。

 もっとも、ルーマニアの場合は2022年以降、引き締め政策の代わりに、レウのユーロ相場を1ユーロ=4.9レイ台で実質的に固定する選択を取った。引き締め政策に伴い景気が悪化することを防ぐための判断と考えられるが、結果的に「双子の赤字」は改善されず、通貨も実勢に比べてオーバーバリューされるという事態が放置されてきた。

 EUから「双子の赤字」の是正が勧告されている以上、新政権もそれに従わざるを得ない。しかしシミオン氏が大統領となり、次いで極右的な政権が成立すれば、EUとの関係の悪化は回避しがたい。

 EUからの所得移転も受けることができなくなる一方、バラマキも強化されれば、すでに過大評価されているレウ相場など、維持できるわけがない。

 そこで、投資家は通貨レウに対して強烈な売りを浴びせたようだ。中銀はこれに抗えず、為替レートを切り下げたのが大統領選後のレウ相場の実情だろう。

 とはいえ、中銀が1ユーロ=5.1レイ程度でレウ相場を維持できる保証はない。5月18日の決選投票までにシミオン氏の優勢が確実となれば、レウ相場が一段と切り下げられる可能性が意識される。