「AI対AI」の戦いになってしまう就活

 採用試験を受験する学生も「エントリーシート」の作成や面接対策にAIを駆使しているようです。人材会社大手リクルートの研究機関である就職みらい研究所の調査(2月1日時点)によると、就職活動経験のある大学生の56.0%が「就活でAIを使ったことがある」と回答しています。

 学生にとっては自身の本質を明確に伝える一助となります。しかし、度が過ぎると、企業に合わせた虚飾の人物像を創り出しかねません。自分と似て非なる、無理に進化させた「もう一人の自分」が出来上がり、それが独り歩きしてしまいます。

 企業はAIを使って学生を選別しようとし、学生はAIを使って企業の求める人物像に合わせた回答をします。企業と学生の代理として、AI同士が向き合う、つまり「AI対AI」という奇妙な構図になっているのです。

 新卒採用は、企業の成長に向けた前向きな活動で、そこに多様性との矛盾を指摘するのは枝葉末節だという考え方もあるでしょう。

 しかし、そう考えるのならば、多様性への本気度は表層的だと言わざるをえません。多様性は外来種みたいなもので、外向けのアピールにしておけばよい、そもそも日本に根付くわけがない、という程度の覚悟なのでしょう。

 イノベーションを唱えて、10年、20年、30年・・・。日本の企業社会が、それを実現できないでいるのは、理念と実践の乖離に寛大という独特の病理を抱えているからだと考えます。言っていることと、やっていることが違う、そんな不整合を許容せず、理念を着実に実行していくことがイノベーションへの王道なのではないでしょうか。