一律の新卒採用を取りやめた富士通に注目
新卒一括採用が日本経済低迷の一因というのは少し飛躍があるように思いますが、多様性より同質性が、自律性より従順性が勝る構造が、新しい価値を生み出せない悪弊なのだという考えなのでしょう。
学歴偏重など画一的な視点で大量の人材を選別する新卒採用の仕組みそのものが、異質なものを排除し、同質性を求める方向に傾きやすい性質を内在しています。そして、入社後に企業風土に染まり、組織の枠に嵌まり、権力に逆らわないことを習得していく展開が待っています。これでは、アニマルスピリッツは育たず、グローバル化の中で競争に負けてしまうということです。
その言説には一理あると思います。しかし、「新卒一括採用が多様性と逆行している」と考えている企業はほとんどないのではないでしょうか。
多少の見込み違いはあったとしても、概ね社会人らしく成長し、それなりに戦力になっている——。だとすれば、新卒採用について問題意識は芽生えません。新卒採用の成否や意義を精緻に検証することもないまま、マンパワーの維持としては有効と考え、前例踏襲を続けるのです。
そんな中で、注目の動きがあります。
富士通が2025年度から処遇や採用時期が一律の新卒採用を取りやめたのです。通年で、職務に応じて必要な人材を新卒採用と中途採用を分けずに実施するとのことです。
富士通は、職務内容を定義し、専門性に基づいて働く「ジョブ型」の人事制度を確立する方針です。したがって、人材獲得で新卒と中途を区分しないというのは合理的です。また、ジョブ型は、基本的にはスキルの有無で人物の評価が決まるので、国籍、学歴、性別などの属性は関係なく、多様性と相性がよいと言えます。
人材獲得において、「これが正解」というものはありません。企業が、それぞれの戦略に基づいて実施するものです。それこそ、多種多様な選考方法があってよいと思います。
企業の「多様性重視」に相容れないことがもう一つあります。