熱伝導と対流による海水温低下のメカニズム
まず一般的な「熱」の移動は、「熱伝導」「熱伝達」「熱放射」の3つに大別された中で議論されています(定義はネットで簡単に確認できるため割愛します)。
この中で私が注目するところは、固体・液体を問わず物体内を熱が伝わる「熱伝導」と、異なる物質間(空気と海水など)の間で熱を伝える「熱伝達」、熱が伝わることで生じる液体の流れ「対流」です。
「対流」は、流体の温度差で生ずる浮力によって起こる運動として「自然対流」と強制的な運動によって起こる「強制対流」とに細分されています(参考文献:「熱流体力学」中山顕・桑原不二朗・許国良著)。
上記の理論を私なりの理解をもとに簡単な例と海況との関係に置き換えてみます。
例えば、マグカップに80度ほどの熱いコーヒーを注いで適温で飲もうとします。気温は20度。
しばらく放置しておくと自然に冷めることや、早く飲みたいときには息を吹きかけて冷ますことは経験的に理解できます。
この場合、「熱伝導」「熱伝達」「対流」という面からみて何が起こっているのかを考えてみます。
1.80度のコーヒーの液面に触れている気温20度の「空気」は、温度の高い「液面」に触れることで熱の移動(「熱伝達」)が起こり、温まった空気は軽くなって上昇し、気温と同じ重たく冷たい空気を液面に呼び込みます。
2.またコーヒーの中でも同じことが起こっており、空気によって熱が奪われた液面部分は体積が減少し密度が高まり重くなります。
すると、液体の中で冷えた部分は下降し、相対的に温度の高まった下方の液体は密度が相対的に小さくなり軽くなって上昇します。
3.液体と空気の間では両者の温度が同じになるまで「熱伝達」が行われ、その結果、上の1と2に示した液体の運動が連続して起こり、「自然対流」が発生します。
液体だけではなく、空気にも同じように「自然対流」が発生していますが、ここで液面に息を吹きかける「強制対流」を行うと、液面と空気の間の「熱伝達率」が高まって液面が早く冷まされ、コーヒーが飲みやすい適温に素早く冷めていきます。
これを大胆に東京湾に置き換えてみます。
平均気温の上昇や安定期に、ゆっくりと暖められた海面が強く冷たい北風に海面がさらされてしまうと、「強制対流」によって温まった海水が一時急に冷やされます。
このため、沿岸部の浅い場所ほど気温の変化の影響を強く受けやすくなることが考えられます。
ここに魚の水温下降時における摂食活動の特性を組み合わせると、「北東風が吹いているときは釣れない」といった通説の裏付けの一つになるのではないかと思います。
また、こういった日に出会うことも釣りの一つとして、その影響を踏まえた遊び方の工夫や期待調整を行ってみることで、「貴重な1匹」への喜びや再現性への自信として充実感や楽しさが味わえるのではないかと思います。