釣りを終えて沖堤防から帰港中の風景(筆者撮影、以下同じ)

なぜか人を夢中にさせる「釣り」

 仕事の緊張から離れたとき、また家庭でも一人の時間を持った時、つい、釣りにつながることを考えてしまいます。

 海況や釣果情報から次の釣行を検討しながら、以前味わった渾身の1匹や、大釣れ後の至福の時間。渋い日に逃した1匹の悔しい思い出と教訓は、不思議と鮮明に蘇ります。

 このような鮮明な記憶や、いわば生活の一部にまでなってしまうほど心を捉え続ける「症状」は、これまで私を含めて希少な「道楽者」に限ったことと考えていました。 

 たまたま機会があり調べてみると、どうやら人間の脳の特性が関係し、大小多くの人が感じられることのようです。
 
 今回は、釣りという遊びの「吸引力」を脳科学的側面も踏まえて2回に分けて検証してみます。

 初回は人間の思考特性という総論的視点から。2回目は人が「夢中になる」要素をマーケティングの視点から捉え、釣りに置き換えて一般化してみようと思います。

「天の恵み」にすべてを任せるのも楽しみの一つではありますが、人間の特性を理解しながら「大人の遊び方」の研究も一つの楽しみとしてご参考いただければ幸いです。

人間の思考特性

 生物学者のライアル・ワトソン氏によると、人間は「ネオフォリア(新しいもの好き)」であるとしています。

 そこでは、人間の高い記憶力と適応力の副産物として、何かを覚えるとそれに関する興味がなくなるというものです。

 つまり、同じことを繰り返し完璧に覚えてしまうと、熱狂した「マイブーム」が去っていくように、次第に「飽きていく」というものです。

 反対に仕事でも遊びでもその過程で「夢中」になっている時は「幸福に感じている」状態としています。

 この「夢中」になるきっかけには、人の「脳」の受け止め方が重要なポイントになっているようです。

 人間の脳には、目の前で起こっている事象に対して、自身の情報系のシステムによって、これまで築いてきた価値観と照らし合わせる機能があります。

 そして自身の人生を変えるような大きなきっかけが来たと察知したときにサインを送り、自身の人生の指針として「強く痕跡を記憶に残しておこう」と働きかけます。

 これを人は「感動」といった形で認識します。