富士山を遠望する相模湾釣行風景(筆者撮影、以下同じ)

 前回「釣りはなぜ人を夢中させるのか、その吸引メカニズムを検証」では、釣りという遊びの中で起こる感動や夢中、飽きるといった人の「感情の動き」を脳科学的視点から紐解いてみました。

 人間の「脳」は、その情報処理特性から新しい価値を見つけると積極的に吸収し、これが終わると「新たな価値」を求める――というのが一つの帰結でした。

 今回は、この「感情の動き」が受動的な事象にとどまらず、人工的に設定した中でも起こることを検証してみたいと思います。

 経済活動で作り上げる世界観、具体的には人の購買行動における「経験価値」にあてはめて見てみます。

 自らを取り巻く環境や制約の中でも、工夫しながら感動を得るといった、「大人の遊び方」のヒントになれば幸いです。

釣りがもたらす相対的な価値認識

 長年釣りをしていると、陸釣りや船釣りのいずれの場合でも、入れ食いの日もあれば渋い日(釣り場や地域などの単位で全体的に釣れない日)もあります。

 同じ魚でも日によって釣り人が感じる1匹の価値は異なり、相対的であると感じます。

 当然、たくさん釣れた日の喜びや感動は一入(ひとしお)です。

 一方で、渋い日など難易度の高い釣りの場面で、経験の引き出しや仮説を駆使して得た1匹は、自身の経験上でも、自己実現や周囲との差として、強い感動や達成感を覚えます。