「体験格差」の実態は

 体験格差は日本全国に広がっており、それを示す調査データも事欠きません。

 特定非営利活動法人「放課後NPOアフタースクール」(東京)が今年1月に実施した調査によると、習い事に通っていない小学生の割合は38.4%でしたが、世帯年収300万円未満の夫婦共働き世帯の小学生に限ると、その割合は69.2%に達しました。実に30ポイントほどの格差があったのです。また、年収300万円未満の家庭で「放課後に全く友達と遊んでいない」と回答した子どもは52.3%にも上っています。

 同じ調査では、放課後の自宅での過ごし方では、年収300万円以上の家庭では「スポーツ」「楽器・音楽・歌」が13.5〜20.5%だったのに対し、300万円未満の家庭はどちらも0%でした。年収の低い家庭にとって、スポーツや音楽を子どもに経験させることは“ぜいたく”になってしまったようです。

 同様の結果は、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」が2023年7月に発表した「子どもの『体験格差』実態調査」でも明らかになっています。それによると、世帯年収300万円未満の家庭の子どもの約3人に1人が、スポーツや文化芸術活動・自然体験・社会体験・文化的体験といった学校外の体験活動を1年間、何もしたことがない、という結果になりました。

図:フロントラインプレス作成

 また、世帯年収300万円未満の家庭の子どもが学校外の体験をしていない割合は、600万円以上の世帯と比較して2.6倍も高くなっていました。家庭の経済状況によって子どもの体験機会に格差が開いていく実態をまざまざと見せつけています。

 こうした背景には体験格差にとどまらない「子どもの貧困」という問題が横たわっています。貧困という指標には、生きるために絶対必要な衣食住が足りない「絶対的貧困」と、周囲が当たり前に営む水準の生活を送ることができない「相対的貧困」があります。絶対的貧困は主にアフリカやアジアの開発途上国で顕在化し、相対的貧困は主に先進国で現れます。

 日本の場合はどうでしょうか。厚生労働省によると、相対的貧困を示すラインは1人で使える可処分所得の中央値の半分とされています。国民生活基礎調査で見ると、2021年のラインは127万円で、17歳以下の「子どもの貧困率」は11.5%でした。およそ9人に1人が貧困状態に陥っている計算です。ひとり親家庭に限れば、子どもの貧困率は44.5%という高い割合に達しました。

 貧困家庭にとって、制服や学用品、参考書、給食、さらには修学旅行などの経済負担は軽いものではありません。これら学校生活に欠かせない出費に加え、学校外での体験にもお金がかかることを考えると、体験格差が生まれる素地は相当に根深いとも言えます。