動き出した支援策、「善意任せ」に限界も
体験格差を解消するための取り組みは、あちこちで動き始めています。
文部科学省は2022年6月に文科大臣名で「子供の体験活動推進宣言」を発し、子どもたちに向けて「リアルな体験」機会の充実を全国規模で推進するとうたい上げました。その後、省内に「子供の体験活動推進に関する実務者会議」を設置し、企業と連携して体験機会を創出する方針を打ち出しています。
こうした流れを受け、各地でさまざまなプロジェクトが行われています。例えば、JTBコミュニケーション・デザインは2023年度、こども食堂の運営に携わる非営利団体などと協力し、「こころ羽(は)」と称する活動を手掛けました。同社が運営に関わっている公共の文化施設を利用し、コンサートやミュージカルなどに360人の子ども・家族を招待。子どもたちに文化活動を体験してもらいました。
楽曲制作などを手掛けるゼストエンターテイメントも東京都内でチャリティーコンサートを実施し、相対的貧困の子どもたちを招待しました。ギターやキーボードなどに触れてもらうコーナーも設置。楽器に触るのは初めてだったという子どもたちも多かったそうです。
教育旅行事業などを手掛けるリディラバ(東京)は慶応大学などと連携し、2023年から「子どもの体験格差解消プロジェクト」を立ち上げ、活動を続けてきました。新潟県で開かれる「大地の芸術祭」に子どもたちを招待するツアーなどを手掛け、ひとり親家庭などの中・高校生ら多くの子どもたちが参加しています。
ただ、こうした取り組みがどこまで継続的に実行できるかは、いわば民間の善意に任されたままです。文部科学省の調査によると、小学生の頃に川遊びや美術館見学、スポーツ観戦などの体験を重ねた子どもは、高校生の時に自尊感情や積極性などが高くなることが分かっています。それほど大切な「体験」の機会提供を民間の善意に頼ったままでよいのかどうか。未来を見据えた、もっと抜本的な対策が必要かもしれません。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。