
日本のドクターヘリは1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとして、導入に向けた動きが始まりました。それから30年。今では全国で57機が配備され、1年間に2万2000人以上の患者に診療を施しています。まさに、僻地や離島の「命綱」。その歴史と現状、課題をやさしく解説します。
対馬沖の不時着水事故、緊迫した現場浮き彫り
ことし4月初旬、長崎県の対馬沖で医師や患者らを乗せたヘリコプターが不時着水し、高齢の患者と付き添いの家族、それに30代の医師が亡くなるという痛ましい事故がありました。このヘリは、福岡市内の病院が民間の航空会社に運航を委託していた医療搬送用のヘリです。都道府県が運用するドクターヘリではありませんが、このヘリだけで年間の出動は約80件に達していました。
長崎県の有人離島は、全国で最も多い51島。壱岐・対馬などの離島や、交通の不便な郡部・半島地区からの患者搬送にはヘリが欠かせないのです。
対馬沖での事故に関連し、長崎県の大石賢吾知事は4月24日の記者会見で「3名の尊い命が失われたことは、痛恨の極み」と述べました。そのうえで、「多くの離島や半島を有する長崎県にとって、ヘリコプターによる患者搬送、これは救命率の向上だけでなく、後遺症の軽減を図ることなど、県民の命を守るために欠かせないものだ」と強調。対馬沖の事故を受けて安全点検に入っていた長崎県のドクターヘリについても、早期の運航再開を約束しました。
さらに、2025年度に導入を予定している2機目のドクターヘリについても、計画に変わりはないとの考えを明らかにしました。「命綱」は片時も緩めることができない、というわけです。
実際、長崎県の説明によると、この会見の前日までに点検のためのドクターヘリ休止は17日を数えましたが、その期間中も代役のヘリは8回出動しました。ほぼ2日に1回です。さらに再点検のため、5月3〜4日に運航を停止した際には2日間で2回の出動要請がありました。緊迫した日々の医療現場を浮き彫りにするような数字です。
では、ドクターヘリとは、どんな存在なのでしょうか。