巨額の運用費用、それでも必要な「命綱」
ドクターヘリの運用には巨額の費用がかかります。運航に必要な経費は国と都道府県が2分の1ずつ負担していますが、費用の規模はどの程度でしょうか。
厚生労働省の資料によると、運営費の内訳は、航空会社に支払われる運航委託費(ヘリの賃借料、操縦士らの拘束料、燃料費など)のほかに、搭乗する医師・看護師の人件費などで構成されています。
2023年度の場合、1機あたりの運営費は年間3億円前後(飛行時間によって異なる)。全国57機の運営費総額は174億円に上りました。近年は円安に伴う燃料費の高騰に直撃されており、翌2024年度の運営費総額は190億円に引き上げられています。
運営費以外の課題も山積しています。焦点の1つは、運航時間が限定されていることです。
ヘリの運航は原則、有視界飛行のため、ほとんどのドクターヘリは安全のために午前8時半から日没までしか運用されていません。救命を必要とする患者には昼も夜もありませんが、ドクターヘリは夜間に飛行できないのです。
この状態を解消するには法改正や夜間運航に対応した基地の整備、操縦士の確保などが必要になります。1000時間以上の機長経験が必要と定められているドクターヘリ操縦士の養成も大きな課題でしょう。
それでも、救命が必要な患者の「命綱」であるヘリ対応を止めるわけにはいきません。今年4月に起きた対馬沖の事故では、犠牲になった患者の親族が「誰が何と言おうとヘリは必要」と言い、このまま事業が停滞したら困ると語りました(毎日新聞、2025年5月6日)。その思いは医療関係者だけでなく、多くの国民に共通しているはずです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。