「まるで中国の文革」
民進党議員団は2025年1月3日、韓国瑜・立法院長(国会議長)が議会を通過した修正公職選挙罷免法案の総統への提出を遅らせるなど非中立的な行動をとったとして、立法院長の更迭議案を提出した。立法院は手続き不備を理由にこれを却下した。
その翌日4日に民進党議員団主席の柯建銘は記者会見を開き、立法院長改選と国民党立法委員41人のリコールを訴えた。柯建銘は「野党が台湾を混乱させ滅ぼそうとしている」と支持者世論によびかけたのだ。

だが、国民党も黙ってはいない。1月7日、国民党は対策会議を開き、民進党38議員に対し、段階的にリコールを請求していく方針を発表。
また南投県では、国民党支持者が草屯鎮の首長補欠選挙後に民進党県議の蔡銘軒と陳玉鈴をリコールしようと試み、こうした与野党リコール合戦の影響は地方議員レベルにまで広がった。
今期立法委員就任一年目を迎えた2月1日以降、本格的なリコール合戦がスタートした。台湾のリコール制度は、3段階の手順があり、まず、選挙区有権者数の1%以上の署名を集め、リコール請求案を中央選挙委員会に提議する。選挙区有権者数の10%の署名でもって第2段階で選挙区の住民投票を行うことが決められる。第3段階での住民投票で賛成票が多数で、かつ賛成票が選挙区有権者総数の25%を超えることでリコールは成立する。
民進党支持の市民団体の代表でもある、半導体大手・聯華電子の創始者・曹興誠は「中国共産党は台湾野党を買収して台湾を内部から崩壊させようとしている。中国のスパイを立法院から追い出し、クリーンな立法院を取り戻そう」などと訴えて、署名をよびかけ2月3日、王鴻薇ら19人の国民党議員と新竹市長の高虹安(民衆党)のリコール請求案を提出。さらに1週間後、15人の国民党議員らのリコール請求を提出した。
国民党陣営は2月1日に7人の民進党選挙区立法委員と2人の民進党原住民枠立法委員、民進党南投県議2人のリコール請求署名を提出。さらに7日、民進党が優勢な台南市の選挙区から選出された王定宇や林俊憲ら3人の民進党立法委員のリコール請求案を出した。
こうして双方あわせて立法委員ら50人以上を対象としたリコール請求が乱れ飛ぶ状況になっていた。だが国民党陣営側が出したリコール請求署名の中に1700人以上の死者の名が使われていた事件も発覚した。国民党支持者団体代表の男がこれを理由に逮捕されている。4月11日段階で、35人の国民党立法委員、12人の民進党立法委員、6人の民進党寄り議員が第2段階の手続きに入っている。
民進党としては、国民党立法委員を4、5人リコールさせ、補選で民進党候補を当選させれば、現在のねじれ国会状態を脱却でき、政権運営はずいぶんと楽になる、という期待がある。だが、与党政権による大衆動員型のこうした政治運動によって政治家を引きずり下ろすリコールブームは、「まるで中国の文革のようではないか」と批判的にみる市民も少なくない。