日本の学術はなぜダメになった?
「出口調査」の水準チェック消失
改めて一応お断りしておきます。長年この連載を読んでくださっている読者には、私がむしろリベラルであってもタカ派ではないのは、よくご存じと思います。
戦前の「国民皆兵」に向けた教育が良かった、それへの復古・回帰を! などと言いたいわけでは、もちろんありません。
そうではなく、1947年以降の日本の(公)教育で失われてしまったのは、卒業段階での「出口調査」、つまり「出荷時の品質保証」に相当する教育の水準チェックが消失したことによるのです。
その主犯はGHQ、占領軍にほかなりません。日本の戦前の教育は、非常に高い水準にあった。
連合軍は「カミカゼ」で特攻してくるイエローぺリル(黄禍)たる日本人が、どのような教育を受けて、あのような自爆特攻で突っ込んで来るのか、占領直後から入念に調査を行います。
その結果、八紘一宇などの思想教育と並んで、特に算術や理科など、サイエンスの基礎教育が極めて充実していることに驚嘆させられます。
小学算術の立役者、東京帝国大学理学部物理学科出身の塩野直道氏などは、一番に公職追放され、後半生を官界、学界で過ごすことはありませんでした。
占領軍による教科書の「墨塗り」というと、修身などの思想教育ばかりが強調されますが、それと同じように、多様な応用に目の開かれた、驚くほど充実した日本の初等理数教育は寸断され、見るも無残なバラバラ事件が1947年以降、約80年続いています。
具体的にどういうことか?
皆さんご自身が、実は体に染みついてご存じの状態が出現しました。
小学校5、6年生には「応用問題」がありましたね。鶴亀算、時計算、植木算などなど。
では中学卒業時点で、数学の問題に「応用」がありましたか?
というより、今現在でも「2次方程式」が何の役に立つか、子供にパッと教えられますか?
応用問題の消去=「墨塗り」。これが、GHQがやらかした、日本の教育の骨抜きのもう一つの実態です。
同じことが高校の数学にも、さらに「旧制高校の数学」=現在の大学教養課程まで、ずっと繰り返されているのは、驚くべきことです。
つまり、高校に進学された皆さんは、1年生で「三角関数」や「指数関数」を習うはずですが、それが何の役に立つか、教えられましたか?
子供に尋ねられて、多くの「数学の先生」が答えに窮する現実があります。ましていわんや、一般の親御さんが答えられなくて何の不思議もありません。
「お父さん、三角関数なんて、何の役に立つの?」と問われて、交流の蛍光灯がついている室内で答えに窮するお父さんというのは、何とも残念な悲喜劇を演じていることになる。
なぜなら、交流の電機システムは基本すべて、三角関数、指数関数を活用して設計、実装されているからです。
昭和22年からの新課程で教育を受けた昭和15年生まれ=現在85歳以下の世代は、あらかた、この「分断教育」の犠牲者と言ってよいでしょう。
1億2000万の人口に占める85歳以上の割合は2020年時点で600万人程度とのことですから、ざっと人口の95%がGHQ分断教程で学んだ人ということになる。
読者の皆さんが、こうした問いに答えられなくても、それは当たり前のことであって、悪いのはGHQの分断、墨塗り教育に責任があります。
では、そのすぐ上はどうかと問われると、「学徒動員」で教育どころではなかった世代が続き、さらにその上は「学徒出陣」のため戦地で多くの人が亡くなり、人口にへこみのある世代となります。
ところが、日本のノーベル賞受賞者は、実はこの世代、「わだつみ世代」に特化して多いのです。