インパクト投資も結局は資本主義の増殖運動なのか
現在では、地球上に存在する80億の人間のほとんど全ては、好むと好まざるとにかかわらず、資本主義というフィールドでプレーをする以外の選択肢を与えられていません。物心ついた時からサッカーフィールドに立たされ、何故とか何のためにという問いを発する暇もなく、ただひたすら試合に勝つためにサッカーボールをゴールに蹴り込むことを強いられているようだとでも形容すれば良いでしょうか。
そうした中で、『欲望の資本主義』に登場したガブリエルと名和は、私たちが資本主義というフィールドに立たされていることは認めた上で、質的な成長も「成長」のひとつとして解釈し、資本主義の成長に取り込もうとしていると理解しました。
もちろん、両氏とも質的成長をマネタイズして更に儲けようということではなく、質的成長を意識することで、資本主義自体の変容を促そうとしているのだと思います。
その上で、私が問いたいのは、私たちは「資本主義の外側の世界を認めるのか?」ということです。
例えば、岸田内閣とそれを引き継いだ石破内閣の「新しい資本主義実現会議」でも提唱されたインパクト投資においては、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の17項目に着目して、それまで可視化されなかった社会的価値を定量化して測定しようという試みがなされています。
また、ハーバード・ビジネススクールの教授陣を中心に、それまで可視化されていなかった社会的価値を企業会計に取り込んでいこうという、インパクト加重会計の試みも始まっています。この延長線上には、多くの定量化・数値化された社会的価値が、バランスシートや利益項目の中に組み込まれ、明示化される姿が展望されています。
私自身は、こうした試みを、それまで「価値がない」として無視されてきたものが可視化されるという意味で、大変有意義な試みだと考えています。ただ一方で、これをメタなレベルで見てみれば、資本主義がフロンティアを取り込んでいく資本の無限の増殖運動の一過程に過ぎないのではないかとの不安感も感じます。私たちの真摯な努力は、結局のところ、資本主義の目論見通りになっているのではないかと。