資本主義に歯止めをかけようとした宇沢弘文

 小林は、『縄文文化が日本人の未来を拓く』などの著書で、今を生きる日本人の深層に息づく縄文文化を思い起こすことが、これからの日本における持続可能な社会の再構築につながると訴えています。

 また、日本人で最もノーベル経済学賞に近かったと言われる経済学者の宇沢弘文が、「社会的共通資本」の概念を提唱したのも、市場取引の対象にすべきではない共有資産を残すことで、資本主義の拡大に一定の歯止めをかけるためでした。

 宇沢は、人間が人間らしく生きるために必要な「自然環境」「社会インフラ」「制度」の3つの資本を、私有化や国有化の対象ではない、社会全体で責任をもって管理・維持すべき社会的共通資本として定義しました。

 私自身は、社会的共通資本のように、「資本主義の外にも世界はある」「資本主義の対象にならないものもある」という意識を持つことが、人間が資本主義というメカニズムに絡み取られて疎外されていくことを防ぐために、とても重要であると考えています。そうしたバランス感覚にこそ人間の救いの道があるのではないかと。

 いずれにしても、私たち人類は、狩猟社会から農耕社会に移行し、自然を征服すべき対象とみなすようになってから、特に産業革命を境に「人新世」に突入して以降、地球のキャパシティの限界に突き当たり、人類の存続自体が危ぶまれる状況に直面しています。

 それにもかかわらず、私たちは依然、無限の成長の可能性について議論を続けていて、持続可能な社会の具体的な姿はいまだ見えていません。しかしながら、現代人がこれまで置き去りにしてきた自然との共生の中に、その重要なヒントが示されていることは間違いありません。

(文中敬称略)