彼女たちが働くマッサージ店の現実

 本作の主な舞台とするマッサージ店は、日本で言う指圧が主なサービスだ。だが、そこには、いわゆる「ハッピー・エンディング」と呼ばれる性的なサービスを要求してくる白人男性客も訪れる。

 日本のマッサージ店からすると信じられない話だと思うが、アメリカにあるアジア系マッサージ店では、実際にそのような性的な裏サービスを提供する店がある。渡米して間もない筆者が訪れた足つぼ・マッサージ店でも、店の奥からいかがわしい声が漏れ聞こえきて、全く足つぼに集中できない30分を過ごしたことが実際にあった。

 カーテンひとつで仕切られた部屋では、女性従業員たちが男性客から性的な視線を投げかけられる。肉体的のみならず、精神的に疲弊する状況で勤務していることは想像に難くない。

 本作で描かれるマッサージ店の個室は、彼女たちが女性であること、低賃金労働者であること、(差別的な対象としての)アジア人であることを常に背負いながら生きる場所なのだ。

 本作では、その白人客による差別を苛烈な形で描くが、物語後半の中心となるエイミー(ウー・ケイシー)が、チェン(リー・カンション)の身体の痛みを和らげるために首筋から背中にかけてゆっくりとマッサージするシーンは、普段のサービスと異なり、マッサージが美しく、愛情と喜びを伴った肉体の接触として描かれ、深い感動を観客にもたらす。

 本作の脚本は、映画の舞台となっているフラッシングに生まれ育った監督のツァイが、地元の人たちを入念にリサーチして執筆したものだ。2019年以降、アジア人差別が拡大する中で、ニューヨークに暮らすアジア人たちの現実を確かに切り取っている。

(Nour Films)(Nour Films)