
(元吉 烈:映像作家・フォトグラファー)
アメリカで大ヒットした「クレイジー・リッチ」(2018年)やアカデミー賞作品賞にノミネートされた「ミナリ」(2020)、「パスト・ライヴス」(2023年)など、近年のアメリカ映画界ではアジア系アメリカ人の物語を、アジア出身の監督たちが語る映画が多くの話題を集めている。
ニューヨーク市の東端に位置する中国人地区・フラッシングを舞台に、マッサージ店で働く女性たちと台湾から出稼ぎにきた一人の男の物語を語る「Blue Sun Palace(原題)」は、それらのアジア映画に連なる作品だ。
監督は、舞台となるフラッシング出身のコンスタンス・ツァイ。ニューヨークお披露目となったMoMAでの上映には、監督、スタッフの友人などが数多く訪れ、熱狂と祝福のムードに包まれた。
上映前に舞台挨拶をしたツァイから促された形で起立したスタッフにはアジア人だけでなく西洋人も混ざっていたが、映画本編にはマッサージ店の客として登場する数人の白人男性以外は中国人しか登場せず、彼らとの会話に使われる以外、英語も使われない。
その上、映画は主な舞台となるマッサージ店のほか、登場人物たちの狭い家やカラオケ店など、物語の多くが室内で進行するため、ここがフラッシングなのか、中国か台湾なのか分からなくなるように設計されている。
実際には室内だけでなくフラッシングの街並みも撮影したものの、編集過程で使わないことになったとツァイは説明しており、文化の混在するニューヨークを舞台にしつつも、あえてその閉鎖性を描く野心的な試みが面白い。

※以下ネタバレあり。劇中登場人物は中国人と台湾人が混在しているが、文章を簡潔にするため、特に必要がない限り、便宜的に彼らを「中国人」、言語を「中国語」と記します。