これは、戦力を戦略機動させる際に常に起こるリソースの競合問題です。どちらを優先すべきなのかは、その状況次第です。
ただ、キーン・エッジでこの問題が顕在化したのは、日本の西部、そして南西方面においては、移動距離が長い上に空港が少ないといった、そもそもリソースが乏しいという問題があるためです。
空港だけでなく、港湾の能力についても同じ事が言えますが、緊急の対応を行う上で、特に空港が問題となることが顕在化したのでしょう。
政府としては、馬毛島(鹿児島県西之表市)の基地化や民間機用空港を特定利用空港に指定することで自衛隊が使用可能とする対策をとっています。キーン・エッジが昨年2月であったため、この演習の結果を踏まえて、こうした動きが加速しているはずです。
なぜ今になってリークされたのか?
このキーン・エッジは、昨年2月に行われたものです。1年以上前の指揮所演習の内容が、今になってマスコミにリークされた理由は考えなければなりません。
もちろん、それは想像するしかできないことですが、昨今の政治状況を考えれば、トランプ大統領の出現による安全保障環境の不安定化に関係していると考えることが自然でしょう。
先に述べたように、現実がこの演習想定の通りに進行するか否かは分かりません。
この情報をリークすることで、不安を抱く日本国民を安心させようと考えたのかもしれませんし、国防総省・米軍が、この演習のように考えていたことを知らしめ、トランプ大統領が実際の危機に際して消極的な姿勢を見せた場合に反感が強くなることを意図しているのかもしれません。
いずれにせよ、日米が確固たる姿勢をとるなら、この演習のように事態が進む可能性が高いと思われます。記憶に留めておくべき演習と言えます。
最後に、筆者としては、キーン・エッジから遅れること6カ月、昨年8月に刊行された拙著『有事 台湾海峡』(祥伝社)の展開とキーン・エッジの内容がそっくりであることに驚かされました。この小説中でも、存立危機事態が認定され、日本の戦闘機が台湾海峡の中国艦に対艦ミサイル攻撃を行うことを描いています。
手前味噌ではありますが、この記事に書いた内容をもっと詳しく知りたいと思う方は、ぜひ本書をお読みいただければと思います。ただし、想定している政治状況の違いから、展開は少し異なります。