認定されていた事態~「武力攻撃事態」ではなく「存立危機事態」

 次に、安全保障関係者が注目していた事態認定について解説します。

 キーン・エッジでは、在日米軍基地へのミサイル攻撃があった他、与那国島に中国軍が上陸したとの想定がなされました。

 我が国に対する攻撃が行われた際に適用される「武力攻撃事態」を認定する条件を、十分に満たしていたと思われます。しかしながら、演習想定として認定されていたのは「存立危機事態」でした。

 存立危機事態は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と規定されています。

 我が国に対する直接攻撃が行われた場合の武力攻撃事態よりも低いレベルの事態と誤解されることもありますが、直接攻撃が行われていないにもかかわらず集団的自衛権を行使する存立危機事態は、むしろ国際法上では、もう一歩踏み込んだ事態認定と言うことができます。

 キーン・エッジでこのような想定であったことは、存立危機事態を想定することで集団的自衛権の行使を明確化するためだったのではないかと予想しています。

 武力攻撃事態では、自衛権を行使し、自衛隊を行動させることは明らかですが、個別的自衛権の範囲に留まる可能性もあります。その場合、自衛隊は台湾に侵攻する中国軍に対する攻撃を行うことができません。

 恐らく、武力攻撃事態では、演習に参加するプレーヤーが、政府の集団的自衛権行使意図を確認する動きをとる可能性があったため、明確にするために存立危機事態としたのでしょう。

増援と戦力以外のリソース

 陸自が増援部隊を九州に派遣する際、陸自隊員が搭乗する輸送機と空自戦闘機のどちらが優先して空港を使用すべきなのか議論があったことについても触れておきます。