当然、距離が近くなっている分、攻撃しやすかった可能性が高いですが、想定されている状況は、中国軍による台湾への侵攻作戦です。
演習状況の中では、台湾への侵攻を阻止するために、上陸部隊を輸送する輸送艦を叩くべきなのか、航空優勢を得る範囲を拡大するための空母を叩くべきなのか、という点が論点になったということです。
軍事作戦では、目的と目標を明確にすることが重要です。
中国が、海空で台湾を封鎖し、政治的に台湾を降伏させるのではなく、陸上戦力を揚陸させ、軍事的に台湾を占領することを企図しているのですから、中国の揚陸能力破壊を目的とし、輸送艦を目標とすることが適切です。
ただし、中国側もそれを認識しているはずなので、当然それを防ごうとします。空母を進出させ、航空優勢を確保できる空域の拡大を図ることも、その一つです。
つまり、輸送艦の破壊が可能であるならば、輸送艦を破壊する方が適切だということになります。
ここで重要なのが、台湾の航空作戦能力、そして台湾本島の位置と台湾海峡の幅です。
中国と台湾の戦闘では台湾側が圧倒的に不利ですが、ウクライナの状況を見れば分かるとおり、中国がミサイルや空爆を駆使しても、そう簡単に台湾の防空能力は崩壊しません。台湾本島とその周辺は、少なくとも開戦初期では、台湾が航空優勢を確保するでしょう。演習でも、そのように想定されたと思われます。
そして、台湾海峡は、最も狭い箇所で約130キロ、全体としてみると150キロ程の幅しかない海峡です。つまり、日本の攻撃部隊は、台湾本島の東から台湾上空の航空優勢が確保された空域を通過し、容易に対艦ミサイルを発射できるのです。
現状で、航空自衛隊が使用できる対艦ミサイルは、ASM-1、ASM-2、そしてASM-3です。ASM-3は射程300キロ以上と言われ、台湾本島上空の航空優勢がなくとも中国艦を攻撃できる可能性がありますが、まだごく少数しか配備されていません。相応の数を保有しているASM-2は、射程170キロ程なので台湾本島上空から安全に台湾海峡内の艦艇を攻撃可能です。当然、攻撃部隊には護衛を付けるため、射程が50キロ程しかないASM-1であっても攻撃可能な可能性があります。