無能さから自滅することへの淡い期待
個人や企業が行動を控えるもう一つの理由は、新たなレジームの無能さが自己崩壊を招くかもしれないという期待だ。
ストロングマンと称される多くの指導者が経済的に無知なのは事実だ。
高金利がインフレを招くと考えるトルコ大統領のレジェップ・タイイップ・エルドアンの信念は、手に負えない物価高騰を引き起こす一因となった。するとトルコ野党への支持が急増した。
だが、エルドアンはイスタンブール市長で野党のスター政治家であるエクレム・イマモールを逮捕することで対応した。
トルコから得られる一つの教訓は、ストロングマンが権力の座に長くとどまればとどまるほど、対抗するのが難しくなるということだ。
エルドアンは20年以上もトルコを運営しており、メディアと司法、軍を抑制する機会がふんだんにあった。
トランプはまだ米国の機関に対してトルコのレベルの統制力を実現していない。また、経済を台無しにしたことの結果から身を守るのが難しいことを思い知らされるかもしれない。
だが、米国大統領はエルドアンがやったよりも格段に速いペースで権力を固めようとしている。
発砲の瞬間の「初速」で突き進むホワイトハウスの戦略は明らかに、政敵に混乱を植えつけることを意図したものだ。
また、米国人はあまりにも馴染みのない政治領域に入ったことから、頼りにする過去の経験がほとんどない。
幅広い連合とカリスマ的なリーダーが必要
ガブエフとアイディンタシュバシュは迅速な対応と新たな権威主義に標的にされた人たちとの連帯の必要性を強調したうえで、ロシアとトルコの例は民主主義を支持する勢力が広範な連合を構築する必要性を浮き彫りにすると考えている。
ガブエフは、モスクワのインテリは自分たちの社会の閉ざされたバブルから抜け出し、ロシアの地方の町の人たちの懸念に耳を傾けるのが遅すぎたと話す。
同じパターンがトルコとインドでも繰り返され、都市部のリベラル派のエリートがエルドアンとモディから嘲笑され、標的にされた。
そしてエリートはいとも簡単に、一般市民の運命ではなく自分自身の関心事で頭がいっぱいな連中として風刺的に描写された。
アイディンタシュバシュはトルコ野党がようやく勢いを得たことに思いを巡らせ、「カリスマ的なリーダーは絶対に欠かすことができない」と指摘する。
慎重なテクノクラート(実務家)と機械的な政治家は民主主義のための戦いを率いる人材ではない。
民主党にとっての教訓
米国の民主党のエスタブリッシュメント(支配階級)にとっての教訓は明らかだ。
こうしたエスタブリッシュメントはバーニー・サンダースやアレクサンドリア・オカシオコルテスのような政治家を米国政治の極左と見なすかもしれない。
だが、もし彼らがトランプに対抗する最もカリスマ性の高いリーダーとして浮上すれば、拒絶するのではなく、受け入れて前面に押し出すべきだ。
(文中敬称略)