対中関係の歴史的転換点

 もともと「境外(国外)敵対勢力」という表現は、習近平が専売特許のように使ってきた。主に米国や日本を指し、台湾独立分裂分子と結託して、中国を分裂させようとしている、という表現を使ってきた。

軍事演習をする台湾軍(写真:AP/アフロ)

 一方、台湾は「境外敵対勢力」について、2020年施行の「反浸透法」で、「中華民国と戦争状態にある、武力によって対峙している、または非平和的手段を主張する国家、政治団体または集団」と定義。今回、頼清徳は、具体的に中国をこの国外敵対勢力にあたると言明した。

 台湾が明確に国外敵対勢力と名指しているのは、今のところ中国だけ。確かに台湾有権者が選挙で選んだ総統を台湾独立分裂派と敵意を示し、武力恫喝を頻繁に交えて統一を迫る中国は敵対的といって間違いはなかろう。

 中国国務院台湾事務弁公室報道官の陳斌華は、自分たちが反分裂国家法20周年座談会で台湾に対して恫喝していることを棚に上げ、この頼清徳発言について「頼清徳が頑固な台湾独立分裂派で、狂ったように挑発対抗していることをさらに証明した。彼は紛れもない、両岸平和の破壊者だ。台湾海峡危機の製造者だ」と激しく非難していた。

 さて頼清徳の中国国外敵対勢力発言は、どのような意義があるか。

 まず、両岸関係の歴史的な分岐点を示す発言と位置付けることができるだろう。現在に続いてきた中台交流は振り返れば李登輝時代からはじまった。それまでの蒋介石・蒋経国の中華民国と毛沢東の中国は紛れもなく仮想敵同士だった。

 だが毛沢東没後、鄧小平が改革開放路線をとり80年代後半に蒋経国が没して李登輝の台湾民主化が進むにつれ、中台の間で一部民間交流が開始。いわゆる92年コンセンサスによって、「一つの中国」問題の矛盾点を棚上げしたまま、中台の経済的人的交流が拡大していった。

 90年代に第三次台湾海峡危機という形で一時的に緊張が高まるも、胡錦涛政権時代に中国の国際化が加速すると、中国も「両岸(中台)統一」という言葉は使わなくなり、「両岸平和発展」を掲げて、経済の緊密化が急速に進んだのだった。中国の反分裂国家法は、確かに胡錦涛政権時代に施行されたのだが、その目的は現状維持であったという解釈の方が多い。

 この中台経済緊密化の流れを断ったのが、習近平だ。