なぜ、生存戦略を大転換したか

 習近平は再び両岸統一という言葉を使いだし、その性急すぎる統一アクションにより、それまで中国との経済緊密化を歓迎していた台湾人までが警戒感をもった。それが、台湾有権者が長期民進党政権を選挙で選択する結果につながった。

空挺軍を視察する中国・習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

 頼清徳の今回の一連の発言と決断は、李登輝時代以降の中台交流時代に終止符を打ち、蒋経国時代以来の中台敵対関係時代に戻ったという意味で、歴史的な意義があるだろう。

 今後、選挙で与野党が交代でもしない限り、中台に和平統一の選択肢は完全になくなった。もし、習近平が統一選択肢を諦めないならば、武力統一の選択肢以外なくなったことが一層はっきりした。これは、米国と中国の顔色を窺いながら玉虫色の表現で現状維持を模索していた台湾の生存戦略の大きな転換でもある。

 ではなぜ今、頼清徳総統が生存戦略の大転換を打ち出したのか。

 一つはトランプ政権の誕生を受けてのことだろう。

 トランプ政権の誕生は、新冷戦時代のスタートを意味すると考えていい。米国が世界の警察官として国際安全保障枠組みを仕切っていた時代は終わり、国際社会はいったんいくつかのチームに分かれ多極化していく。

 米国を中心とした民主主義海洋国家チーム、中国を中心とした上海協力機構・一帯一路グローバルサウス、そこに欧州、ロシア、インド、中東の位置取りがある。最終的には米国中心チームvs中国中心チームの新冷戦構造に収斂していき、それが緊張感を持ったままの安定となるか、第三次世界大戦前夜となるかは誰にも分かるまい。

 誰にも分からないなりに、それぞれの国家が自国の安全のために米中どちらのサイドに近い場所に立つかを「踏み絵」のように迫られる。それを台湾頼清徳政権はいち早く察知し、早々に中国とは敵対する(米国サイドにつく)という旗幟を鮮明にしたのだろう。

 当然、頼清徳のこうしたアクションは事前に米国にも伝えられていたことだろう。

 米国の台湾における代表機関、米在台協会(AIT)台北事務所長のレイモンド・グリーンはこの頼清徳発言の前に、台湾メディアのインタビューを受け、「米国の台湾に対する支持は揺るがない」と発言していた。

 もう一つは台湾内政の行き詰まりが関係しているだろう。