ところが電車が通過する直前になって、隠れてしまいました。残念。間近を通過する電車が怖いのかもしれないと思いました。

 ふと、東京の都電荒川線を思い出しました。昔は、こんなふうに住宅の軒先をかすめるように線路が敷設されていたし、個人住宅の玄関にだけ通じる遮断機のない踏切がいくつもあったなぁ、と。

 いまいるソレル(Sóller、ソーイェル、ソーリェルともいう)は、マヨルカ島の北西部山岳地帯にある町です。マヨルカ島は、スペインのバレアレス諸島州に属する島で、「地中海の宝石」と呼ばれるほど人気のあるリゾート地です。

「この先は、民家もない原っぱだから、ここから抜けていくといいよ。うちの犬が、その先までお供するよ」。線路沿いの馬小屋にいた男性がボーダー・コリー犬に命令すると、犬は私のすぐ後ろをピタリとついて歩きます。バラストの石を踏むと肉球が痛いのでしょう。歩き慣れていると見えて、枕木の上を選んで四肢のつま先を乗せていました。

 歩き進むと踏切があり、犬はそこに座り込みました。「ぼくはここまでね。戻るね」とアイコンタクトをとったあと、枕木の上を軽快に帰っていきました。