AIを駆使した偽装も、手口はますます巧妙に
英国やドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどの北欧・バルト諸国も昨年12月、ロシアの「闇の船団」に対抗するためのさらなる行動を表明した。逆に言えば、イランと同じく、経済制裁をかいくぐるロシアの動きをなかなか止められない現状が浮かび上がる。
これは昨日今日に始まった話ではない。米国や欧州、あるいは国連が経済制裁で石油の禁輸措置を決めれば、対象になった国は制裁の抜け穴を探す。そこには巨額の利益を手にするチャンスも生まれ、制裁を無視したトレーダーも介入してくる。
ハビアー・ブラス、ジャック・ファーキー両氏著による『THE WORLD FOR SALE』(日本語訳は日本経済新聞出版)は、1980年代の対イラン制裁下でイラン原油の取引に携わり、巨額の利益を得たマーク・リッチ&カンパニーなど資源商社による過去の“暗躍”を数多く取り上げている。
「闇の船団」は位置情報システムを切って航行し、洋上で原油を別の船に積み替えることで輸送の実態をわかりにくくする。
三井住友海上火災保険のニュースレター「MS&AD Marine News」(1月21日)によれば、初期に見られた自動船舶識別装置(AIS)を切って位置情報を外部に伝えない手法(dark activities)が、より巧妙な手口になっている。
実際とは異なる位置情報を発信する「スプーフィング」を使うようになり、さらに人工知能(AI)も利用して検出されにくい偽装に進化した。巧妙になった位置偽装は海上事故のリスクも高める。

規制当局もAIや衛生技術を使いスプーフィング検出に力を入れている。一方のダークフリートの方も偽装技術を磨き、違法行為と対策のイタチごっこが続く。
「闇の船団」は経済制裁の産物とも言える。ロシアと関係のある船主が石油取引規制を回避するために数百隻の老朽化した船舶を購入した結果、「闇の船団」は世界の原油タンカーの5分の1ほどにまで増えたとされる。
老朽船舶を売却した船主にも思わぬ利益が転がり込む。違法業者が勢力を増す背景に、制裁が多額の利益を生む土壌を提供してしまっている現実がある。