生成AIに対するある裁判官の警告
ここまで厳しい指摘をしてきたが、決して生成AIに頼るな、という意味ではない。冒頭で紹介したテキサスの事件でも、裁判所が発表した報告書の中で、裁判官はわざわざ次のように述べている。
「セブンス・サーキット(第7巡回区控訴裁判所)は裁判所に対し『創造性や、法律を拡張、変更、覆すための客観的に合理的な努力を冷え込ませないよう』警告している。当職は、AIが本質的に悪いものであるとか、弁護士によるその使用が禁止されるべきだという示唆をするつもりはない。当職は法曹界におけるテクノロジーの利用の声高な支持者であり続けてきた」
その上で「それでもなお、チェーンソーや他の有用だが潜在的に危険なツールと同様に、自分が使用しているツールを理解し、それらのツールを注意して使用しなければならない」と指摘している。
チェーンソーは危険な機械だが、正しく使えば安全に利用でき、大木を切り倒すという大きな力を得ることができる。それと比較されるようなツールを、私たちは日々使っているのだという意識を念頭に、生成AIと向き合っていかなければならない。
小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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