スピード王+女傑=サートゥルナーリア
シーザリオ(Cesario)という馬名はシェークスピアの喜劇『十二夜』のヒロイン、ヴァイオラが男装する際に用いた名前だそうで、男馬のように力強く走ってほしい、との思いが込められているのでしょう。ただし、翻訳書や演劇だとシーザリオとなっているのは稀で、「シザーリオ」、あるいは「セザーリオ」などと表記されています。
そのシーザリオの子であるサートゥルナーリアの馬名は、古代ローマの祭「サートゥルナーリア祭(Saturnalia=農神祭)」が由来だそうです。
同馬は2005年の三冠馬・ディープインパクト同様、4戦目で皐月賞の栄冠に輝きました。前回とりあげたクロワデュノール(2024年12月末の「ホープフルステークス」優勝馬)もまた、ディープインパクトや6年先輩に当たるサートゥルナーリアの足跡をたどり4戦目での皐月賞挑戦です。
サートゥルナーリアの生涯成績10戦6勝、うちG1勝利2回、G2勝利2回というのはかなり優秀なのですが、同馬の両親のゴールシーンをリアルタイムで数多く見ていた者にすると、今一つ物足りなく感じてしまいます。競馬ファンの身勝手な見方はサートゥルナーリアにとってみれば迷惑な話でしょうね。
父母の現役時代の活躍はもちろんのこと、引退後の実績も立派すぎるので、比較されてしまうとかわいそうなサートゥルナーリアですが、ここは種牡馬として奮起してもらい、少しでも両親の血統を受け継いだような強くて個性あふれる子供たちを世に送り出してほしいものです。
2021年4月の大阪杯(G1)で優勝した牝馬・レイパパレの初年度産駒がサートゥルナーリアとの子(牡)なので、順調なら来年にはデビューすることでしょう。ちょっと期待したいところです。
ただし、産駒たちへの夢と期待はふくらませすぎないほうが競馬は楽しめます。
「名士の子、必ずしも親に似ず」というのは人間社会に限らず競馬の世界にもあてはまるようで、男馬を蹴散らすレースぶりで女傑といわれた名牝たちの子供たちは案外とおとなしい性格の馬が多く、ふくらみすぎたファンの夢を幾多の馬たちが消し去ってくれました。
古くは1991年に誕生したメジロリベーラは7冠馬シンボリルドルフと牝馬3冠メジロラモーヌとの間にできた牝馬で、当時「10冠ベビーの誕生」と期待され大きく報道されましたが、脚部不安のため生涯1戦7着の成績で引退しています。
最近の例ですと、2018年と2020年の年度代表馬、最強牝馬と評されたアーモンドアイの初子・アロンズロッド(牡、3歳)は2024年10月デビュー後、3戦して、4着、2着、3着と勝ち切れずにいましたが、この原稿を書き終えた6日後のレースで初勝利をあげ、 アップ直前に修正・追記することになりました(嬉笑)。
アロンズロッドの父はエピファネイア(その母馬はシーザリオ)、母(アーモンドアイ)の父はロードカナロアなので、祖父母にサートゥルナーリアと同じ血が流れています。
両親に名馬&名牝を持つ子が名馬となれるかどうかは別問題。子供たちにしてみれば両親が現役時代に強豪馬だったり、自らの血統の良さを評価されたことから過大に期待されたりしても迷惑なことでしょう。サラブレッドの世界とは、そうした馬ばかりが淘汰されてできた集まりなのですから。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
