いますぐ下水道の更新投資をはじめよ
橋本:一方で、更新投資はいつか必ず実施しなければいけないものです。もちろん、莫大な予算がかかりますから、一度に更新はできないのですが、危険な地域から真っ先に進めていくべきです。
「カネがないから」と更新投資を先送りしていると、今回の事故のようなことが全国各地で発生し、機能不全に陥ります。特に都市部の重要施設については、優先的にお金を振り分けることで、事業者の数も充実してくると思います。
もうひとつ重要な点として、流域下水道のしくみ、メリット、デメリットを市民も知る必要があるでしょう。日本の下水道には大きく分けて「流域下水道」(複数の市町村の区域にわたる広域的な下水道)と「公共下水道」(1つの市町村内で下水を集める下水道)があり、八潮市は前者にあたります。
流域下水道は下水処理場の集約や土地の有効活用ができるメリットが強調されてきましたが、今回のようにひとつの管路が壊れた時、悪影響が広範囲にわたります。現に、埼玉県では、120万人以上の生活に影響が出ているわけです。
一方で、公共下水道に戻すのも難しい。ひとつひとつの市町に新たに下水処理場を作るのは現実的ではありません。流域下水道の管轄エリアの中で、危険な下水道管を早急に更新投資していくしかないと思います。
地方においては人口減少が著しく、公共下水道の維持が難しい地域もあります。こうした場所では、合併処理浄化槽(トイレや台所、風呂などの生活排水を、家庭で浄化できる装置)を再普及させるなどの案もあります。
合併処理浄化槽は実は2000年代まで日本の地方にはかなり存在していたのです。地方で維持が困難になった公共下水道は更新する代わりに、合併処理浄化槽を普及させることも有効です。
下水道は国家の基盤となるインフラです。「水は選挙の票につながらない」と言う政治家に出会ったことがありますが、そんなことは言っていられないほど、下水道管の老朽化は著しく、市民の生活を脅かす可能性があります。下水道の持続を考えると人材不足、資金不足という壁が立ちはだかっていますが、それで思考停止していいのでしょうか。
社会共通資本の維持の大切さに政治家が気づき、予算配分を変え、魅力的な仕事になれば人は集まってくるのではないでしょうか。特に都市部の下水道管に関しては、更新投資の機運を高めていくべきです。