ロシア側の対応にも変化
昨年ケロッグ提案が表に出た際には、ロシア大統領府のD.ペスコフ報道官が「戦場での実際をより考慮すべき」との短い所感を述べただけだった。
トランプが大統領になるかどうかも分からぬ時点では、たかだか民間研究所が作った案に過ぎないから、本気で取り上げる話とは看做されなかったのかもしれない。
また、ウクライナ軍の反転攻勢の失敗が明らかとなり、ロシア軍が押し始めていた頃でもある。
ペスコフは、「それでも米国はまだウクライナに加勢する(ウクライナへの軍事援助増加の可能性)積もりなのか」と、ただ皮肉っただけだったようだ。
今回は、この案が伝えられているであろうロシアの側からは、何らコメントは出ていない。
しかし、その内容が本物だとするなら、ロシアの従来の主張との隔たりがどこにあるのかが分かってくる。
ウクライナの軍縮が見込まれず、恐らく欧州諸国の軍が平和維持軍派遣の名目でウクライナ領内に駐留となれば、ウクライナがロシアへ再挑戦を挑んでくる可能性を否定できなくなる。
当然ロシアはこれらに代わる中長期の安保体制の仕組みを要求するだろう。
しかし、これは停戦からその後の、欧州全域での新たな安保体制に関わる話であり、答えが簡単に出るべくもない。
従って、ロシアとのこれまでの接触で、ケロッグの案で話がすんなり進むものでもない、という感触をトランプは掴んだのだろう。
これが、ロシア側が首脳間の直接会談に関して米国からの連絡を待っていると述べても、米側がすぐには回答せず、方々交渉材料として対ロシア制裁の強化に言及している理由なのではなかろうか。
ロシアのメディアや論者からはウクライナの上述の報道を受けて、このような短期間でこの問題を片付けることなど不可能、との見解が出される。
カナダやグリーンランドの併合話と同様に、これもトランプ流のはったりの一つに過ぎない、あるいはノーベル平和賞獲得を本気で夢見てのアリバイ作り、と評する向きもある。
また、トランプ政権になっても米国の力で物事を押すという性格が変化したわけではなく、カネが弾丸に取って代わっただけの話、との指摘も出る。
概してトランプ政権の出現に対するロシア内での受け止め方は様々であり、西側で揶揄されているような歓迎一色などでは全くないようだ。
それでもクレムリンが公式に、米側からの両首脳電話会談設定の連絡を待っている、と述べるのは、話し合いの余地が全く見えなかった前政権とは異なり、トランプとなら今後の交渉の中で紛争終結の糸口を見出すことが可能かもしれない、との期待を抱いているからであろう。