ちらつかせる援助打ち切りのカード
見解に隔たりが残されているなら、それを何度か協議を重ねることで格好が付く結果に持ち込むことも不可能ではなかろう、との思いである。
プーチンは、トランプの大統領就任式の時間を見計らったかのように、その直前にモスクワで政府要人を集めた国家安全保障会議を招集し、その場でトランプとの話し合いを歓迎する旨を述べつつ、恒久的和への枠組みへの取り組みが必要、とあたかもこれから始まるトランプの就任演説に対して念押しをするかのような発言を行った。
さらに1月24日の国営TVからのインタビューでプーチンは、トランプが述べた「2020年の米大統領選挙で本当は自分(トランプ)が勝っていた、自分が当選していたならウクライナ紛争は起こらなかった」との下りを、その通りだと肯定している。
これは単なる外交辞令ではなく、プーチンの率直な気持ちを表したものだろう。
プーチンの解釈によればウクライナ紛争のそもそもの原因は、2013年から2014年にかけてウクライナで起こった反政権の市民運動を、一部の過激な(鍵十字の印を平気で身に着けていた)民族主義者とそれを使嗾(しそう=指図)・援助する米国他西側諸国が乗っ取ったことにある。
その後のウクライナはこうした民族主義者に支配され、最初から順守する気もなかったミンスク合意実施への交渉で時間稼ぎをしてウクライナ軍の攻勢余力を高め、クリミア奪回とドンバスの反ウクライナ政府勢力の殲滅を図ろうとした。
今の紛争は米他の西側から仕掛けられた結果であり、その挙句にスラブ人同士が殺し合うという真にバカげた状況に至っている・・・。
トランプが、そこまでの反露政策に突っ込む気は自分には全くなかった、と述べているなら、それはそれで理に適った話だとプーチンには聞こえてくる。
さて、以上のような流れはウクライナにとっては全く歓迎できないものになる。
ケロッグの和平案が本物なら、その内容は従来のロシアの主張をかなり取り入れたものとなっており、承服できる代物ではあり得ない。
ウクライナ政権関係者がその和平案を虚偽と看做すのも、本物ではあってほしくはないとの思いからなのかもしれない。
だがトランプは、FOXニュースのインタビューで、ゼレンスキーは天使でもなく、彼は戦争など始めるべきではなかった、とまで評している。
トランプにやや見放された感のあるゼレンスキー政権は、停戦後の自国の安保体制をどう確保するかという線まで主張を後退せざるを得なくなっている。
そのために彼はダボス会議で、米欧からの平和維持軍20万人の派遣が必要とすら述べた。
しかし、トランプには米軍を派遣する意思は見られない。それを全部欧州諸国で、となれば今の軍事・経済双方の力量から見て非現実的な話でしかなくなる。
米側は、ウクライナを経済的に支えている主力が自国からの援助であるという事実を梃に、最終的に言うことを聞かせることは困難ではないと見ている節がある。