制約下でのイノベーションがもたらした革命

 しかし、単にOpenAIやChatGPTに匹敵する企業やサービスが現れたというだけなら、エヌビディアの評価に派生するというのは不可解だ。OpenAIの将来も安泰ではなくなったという意味で、同社の評価が下がるのであれば納得だが、むしろエヌビディアにとっては、さらにAI市場が拡大するという点でプラスになるのではないだろうか。

 実はそこに、単に「優秀な生成AIが現れた」というだけではない、「ディープシーク・ショック」の真の意味が隠されている。それを理解するために、ディープシーク社が中国企業であるという点に注目してもらいたい。

 近年、米国が中国の台頭を警戒し、GPUのようなAI向け半導体の輸出規制の強化を進めてきたことをご存知の方も多いだろう。

 特に2022年10月、米商務省は、AIやスーパーコンピューターに使用される高度な半導体、およびその製造に必要な技術の中国への輸出を事実上禁止する措置を発表。これにより、エヌビディアなどの企業が製造する高度なAI向け半導体の中国への供給が制限されることになった。

 ちなみに、バイデン前政権はトランプ政権への移行直前の1月13日にも、滑り込みでさらなる輸出規制策を導入している。

 先ほどChatGPT、そしてディープシークが説明してくれたように、GPUは最新・最先端のAIモデルを開発する際に欠かすことができない。これで中国は、欧米企業で開発されているような、超高性能のAIモデルを開発できなくなる──はずだった。

 ところが、ディープシーク社は、規制強化前に入手できた設備を効率的に活用し、限られたリソースでも高度なモデルを開発する手法を考案。そして前述の通り、ChatGPT社のモデル「o1」と肩を並べるほどのモデルの開発に成功してしまったのである。

 しかも、彼らが勝手にそう主張しているわけではない。世界向けに公開された「ディープシーク」ウェブサイトや、スマホ向けアプリを通じてその性能を確認できるし、開発者であればオープンソースモデルである「R1」の中身を実際に覗いてみることができる。できないはずのことを、彗星のように現れた中国企業が成し遂げてしまったのだ。