ディープシークが開くAGI実現への扉
とはいえ、すぐにディープシークやR1が既存の生成AI系サービスに置き換わるのかというと、そんなこともないだろう。たとえばいま、ディープシークのアプリで「中国共産党の長所と短所を教えて」とお願いしてみると、次のような反応が返ってくる。
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中国では生成AIに対する規制により、サービスとして提供される生成AIにおいて、中国共産党の主義主張に反するような出力を行うことは許されない。したがって、市場で提供されている生成AI系サービスでは、何らかの形でフィルタリングやブロックが行われている。
この反応も、サービスを提供するシステムに不具合が生じたというより、質問自体がブロックされたと見るべきだろう(実際、別のプロンプトを入力してみるとすぐに通常通り答えてくれた)。
生成AIを実現するモデルには何らかの偏見が含まれるのが常とはいえ(欧米の生成AI系サービスでは欧米系文化の偏見が色濃く反映されているとの声も多い)、これほどあからさまな偏りがあっては、特に企業ではChatGPTなどの代替として使用するのは難しい。
とはいえ今回、ディープシークが「巨大なリソースに頼らずともAIは開発できる」と示したことで、AI全体が次のステップに進むのではないかと期待されている。AIの次のステップ、それはAGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能)の実現だ。つまりより人間らしく、あるいは人間を超えた思考ができるAIがついに到来するというわけだ。
実際、ディープシークの創設者である梁文峰(Liang Wenfeng)は、ロイターの取材に対して「私たちの目標は、依然としてAGI を目指すことです」と述べ、ディープシーク社員の多くを構成する中国のトップクラスの大学の卒業生と博士課程の学生たちについて、彼らがディープシークで働くことを好むのは、同社が 「AI における最大の課題に取り組んでいるから」だとの認識を示している。
ディープシークがAGIの実現に一番乗りするのか、それとも同社のオープンソースモデルに触発された他のスタートアップが、さらなるイノベーションをもたらすのか。いずれにせよ、AI企業だけでなく私たち一般の人々も、次の「ショック」に備えておく必要がありそうだ。
【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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