「税制から切り離した地域を作る」とは?

──NCLの林さんも同じようなことをおっしゃっていますね。

仲川:だから話が合うんでしょうね(笑)。

 あくまでも頭の体操ですが、月ヶ瀬くらいの人口1000人、予算規模30億円の村があるとします。村民はいったん村に税金を納め、村は地方交付税など国からもらうことのできるお金ももらう。

 ……で、仮に村民が30億円のうち3億円の税金を収めているとして、あとで3億円を世界中から集めてリファンドすれば、理論上は無税のエリアになりますよね。そうすれば、その地域は税制も独立できる。

 しかも、そのお金の使い道は住民たちが自分で決める。

 実は、月ヶ瀬地区で直接民主主義を実現するための予算案を立てていたのですが、予算規模が大きくなりすぎて、議会で否決されたんです。

──どんな予算案だったのでしょうか?

仲川:月ヶ瀬地区の450世帯にタブレットを配るための予算。タブレットを通して、自分たちの地域の決めごとを投票してもらおうと思いまして。
 
 直接民主主義と言いましたが、いきなりそんなことはできません。最初は練習問題が必要です。

 例えば、月ヶ瀬地区にはジャンボかぼちゃの重さを当てるというイベントがあるのですが、そのかぼちゃの重さを投票してもいいし、地域のお祭りで何をするかを投票してもいい。住民が自分で選んだという体験をするためにタブレットを使ってもらおうという狙いです。

 最初は「高齢の方にタブレットを使いこなせるのか」という意見も出ると思いますが、家族の中に一人くらい使える人はいるでしょうし、使えない方はワーケーションルームのONOONOに来てもらって、Local Coopの人が教えればいい。そうすれば、ネットスーパーでの注文もできるようになる。

──壮大な構想がタブレットの裏に隠されていたんですね。

仲川:はい。無駄遣いということでとめられましたが……。でも、自分たちの予算案を作り、どう使うのかを自分たちで直接決めるほうがいいと思いませんか?

 議会でなければできないことは何か、間接民主主義のほうがいいことは何なのか、ということは、改めて考えるべきだと思います。その中でメリットがあれば残せばいいし、ないなら別のあり方を考える。究極、市長も必要かどうか怪しいと思っています。(続く)

仲川げん(なかがわ・げん)
立命館大学経済学部卒業。 帝国石油株式会社(現・株式会社INPEX)及び奈良NPOセンターでの勤務を経て2009(平成21)年7月、当時全国で2番目に若い33歳で奈良市長に初当選。2021(令和3)年7月に奈良市長4期目に就任。

篠原 匡(しのはら・ただし)
編集者、ジャーナリスト、蛙企画代表取締役
1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。
著書に、『人生は選べる ハッシャダイソーシャルの1500日』(朝日新聞出版)、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)
など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。