非常の人

 安永8年(1779)11月21日、源内は神田橋本町の居宅において、殺傷事件を起こした。

 小伝馬町の牢に入った源内は、同年12月18日、破傷風のため、52歳で獄中死している。

 事件については不明な点が多く、真相はわかっていない。

 人気狂歌師で、源内の友人・桐谷健太が演じる大田南畝(おおた なんぽ)の随筆『一話一言(いちわいちげん)』巻之五によれば、源内の遺体は妹・里与の婿に引き渡された(里与は、すでに死去)。

 葬儀は友人や門人によって、行なわれた。

 盟友の杉田玄白は、私財を以て墓碑を建てようとし、源内の生涯の事績を称えた「処士鳩渓墓碑銘」を撰んだ。

 その結びの句「嗟(ああ)非常ノ人、非常ノ事ヲ好ミ、行ヒ是レ非常、何ゾ非常ニ死スルヤ」からは、杉田玄白の友への深い哀悼の意と、「非常の人」であった平賀源内の悲哀を感じさせる。

 源内は密かに牢から逃され、天寿を全うしたとする説も存在する。

 できるなら、こちらが真実であってほしいものである。