ワクチン接種のハードルが高い

 頼みのワクチンも意外と苦戦している。

 サイエンスのレポートによると、コンゴ民主共和国の人口は1億1000万人に上るが、ワクチンは合計26万5000回分が9月にようやく供給された状況だ。成人に接種が進んでいるが、十分な供給がなく、本来2回接種が必要だが1回しか接種できていない。18歳未満の子どもには一切接種されていない。

 11月中旬に追加で12万2000回分が供給され、64万回分が出荷待ち。日本政府から供給される300万回分が頼みの綱だが、アフリカ疾病対策センターの説明によると、最近の状況では接種開始が2025年2月以降になる見込みだ。

 サイエンスのレポートで気になるのは、アフリカでは「接種部位に痕が残ることを嫌う」という傾向が考えられているという点だ。それが接種を遅らせる要因になる可能性が指摘されている。

 また、米イエール大学を中心とした研究グループによる2024年12月の論文報告によると、重症化リスクが高いコンゴ民主共和国に住む15歳以下の8割にワクチン接種をし、感染者を54%減らし、死亡者も71%減らすためには、2660万回分のワクチンが必要とする試算が示されている。

 こうしたワクチン接種のハードルが、エムポックス対策の大きな課題となり得る。

 さらに、コンゴ民主共和国では、そもそも麻疹、コレラ、結核、マラリアなどがまん延しており、しかも、最近では謎の発熱を起こす病気「X」が感染者を増やしており警戒されている状況だ。しかも、感染の震源地に近い北キヴ州や南キヴ州では紛争が続き、適切な医療対応も困難である。栄養失調の問題も指摘されている。

 これらの地域を始め、感染症が大都市へと広がりつつあり、エムポックスの感染拡大リスクが依然として高い状況にある。

 日本ではいまだにクレード1bは報告されていないが、中国で感染者が確認された今、感染拡大が日本にも迫っている。注意が求められている。

【参考文献】
2022-24 Mpox Outbreak: Global Trends. Geneva: World Health Organization, 2025. Available online: https://worldhealthorg.shinyapps.io/mpx_global/ (last cited: 2025/01/14).
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Congo’s mpox crisis
Savinkina A, Kindrachuk J, Bogoch II, Rimoin AW, Hoff NA, Shaw SY, Pitzer VE, Mbala-Kingebeni P, Gonsalves GS. Modelling vaccination approaches for mpox containment and mitigation in the Democratic Republic of the Congo. Lancet Glob Health. 2024 Dec;12(12):e1936-e1944. doi: 10.1016/S2214-109X(24)00384-X. Epub 2024 Oct 9. PMID: 39393385.

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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