法事の席で感情を爆発させる灯ⒸMinato Studio 2025

亡き兄思い、「もう一度、心のケアをテーマに映画を」

 監督は、NHKの連続テレビ小説『カーネーション』や『カムカムエヴリバディ』、そして後述する土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』(2020年1月から2月にかけて全4話放映)の演出を手がけた安達もじり氏。

『心の傷を……』は発災当時、神戸大学医学部附属病院の精神科医として避難所を回り、被災者のカウンセリングや診療などに取り組んだ安克昌(あん・かつまさ)医師の著書『心の傷を癒すということ 神戸……365日』(1996年、作品社)を原案に、安達氏らNHKのドラマスタッフが制作したものだ。同著は高く評価され、96年のサントリー学芸賞を受賞するのだが、安医師はその4年後の2000年、肝細胞癌のため39歳で早逝する。

 安医師の死から20年後にドラマ化された『心の傷を……』は、その年の放送文化基金賞最優秀賞に輝き、21年には安達氏が監督となって映画化されたのだが、実は、本作『港に灯がともる』も、安達氏をはじめ『心の傷を……』の制作スタッフが再結集して作られたものだ。

 きっかけは『心の傷を……劇場版』公開後の22年、安医師の実弟、安成洋(あん・せいよう)氏(60)が安達氏にかけた一言だった。

「震災から30年を機に、神戸を舞台にもう一度、心のケアをテーマにした映画を作りませんか」

 安医師の4歳下の弟である成洋氏は、1989年に慶應大学を卒業後、民間企業を経て、大阪で金融業や不動産業を展開していた父親の会社に入った。しかし、バブル崩壊で会社は債務超過に陥り、97年には父親が病死。その前後から成洋氏は役員として、巨額の債務整理に追われ、2008年に会社を清算した。その後、行政書士の資格を取得。また中小企業診断士や社会保険労務士として、企業からの相談を受けている。

 成洋氏によると、前述の安達氏にかけた一言の背景には、早逝した兄が死の直前に書き残した一節があったという。本作が制作された経緯や作品への思いを成洋氏に聞いた。