大谷 達也:自動車ライター
日本メーカーはほとんど参入しないクラスのプレミアムSUV
CX-80は、これまで日本車にありそうでなかったプレミアムSUVであり、実にマツダらしい製品といえる。
その全長はおよそ5mと大きい。これと同じサイズの日本製SUVといえば、トヨタ・ランドクルーザー300シリーズと、これをベースにしたレクサスLXくらい。ただし、どちらも舗装路向きの都市型SUVというよりは、道なき道を行くクロスカントリー・タイプのSUVで、CX-80とは大きくジャンルが異なる(同じ日本車でも海外向け製品であればより大きなSUVはある)。
この2台を除く日本製SUVはいずれも全長が大きくても4.7m台で、やはりCX-80とはクラスが異なる。
ただし、日本にライバルは見当たらなくても、海外を見渡せばよく似たモデルは少なからず存在する。たとえばBMW X5、メルセデスベンツGLE、アウディQ7などがこれに相当。いずれもドイツ・プレミアムブランドが送り出す、車両価格1000万円以上の高級車だ(CX-80の価格は394万3500円から712万2500円まで)。
なぜ、マツダはこんな高級車市場に乗り込むことにしたのか?
CX-80に至る道筋
CX-80は、マツダが2022年にリリースしたCX-60に続く「ラージ商品群」の第2弾。その特徴は、直列6気筒エンジンも搭載できる前述の大型プラットフォームにある。
それにしても、CO2削減が叫ばれるいま、なぜマツダは「ラージ商品群」を展開しようとしているのか?
彼らはラージ商品群を投入する技術的狙いとして「EV移行期における内燃機関車のさらなる環境負荷低減」と「より上級志向のお客さまのニーズを満足させる抜群の商品力」を挙げている。
では、どうしてクルマを大型化させることで「環境負荷」を低減できるのか?
マツダによると、エンジンを大排気量化すると、同じエンジン負荷でも燃費率を改善できるほか、多気筒化すると同じ出力を発生させるのに必要な負荷が低減され、結果的に効率が改善されるという。一般的にはちょっとイメージしにくい話だが、か弱い人があくせく働くよりも、筋肉隆々の人がゆったりと働いたほうが「辛くない」のと同じと考えていただければいいだろう。
その証拠に、排気量3.3リッターの直列6気筒ディーゼルエンジンを積むCX-60はWLTC燃費が19.8km/ℓ(後輪駆動モデルの一部)で、これは排気量が1.8リッターで車重がCX-60より500kg近く軽いCX-3(前輪駆動モデル)の20.0km/ℓに迫るデータであるとマツダは主張する。いっぽうで、CX-3にはない新技術が最新型のCX-60に投入されているのは事実ながら、なるほど、大排気量化や多気筒化は効率改善に効果があるのかもしれない。
それとともにマツダにとって重要なのは、大型車や高級車の需要を取り込みたいという思いであるはず。そのほうが車両価格は上がり、企業としての利益率改善にもつながるからだ。
ここで、マツダが上級車市場進出を決断する際の後押しとなったのが、CX-8やCX-9などの商業的な成功だった。
どちらも、マツダの主力モデルであるCX-5をベースに作られたSUVで、搭載エンジンは4気筒ながらCX-60やCX-80に匹敵するボディサイズを誇っていた。これらが予想外の好評を博したことから、マツダはより本格的な“プレミアムSUV”の開発を決定。こうして完成したのが、ドイツ製プレミアムSUVと並ぶ6気筒まで搭載できてエンジンを縦置きにする「ラージ商品群」だったのである。
CX-60の挑戦と課題
マツダはここで、いかにも彼ららしい技術的チャレンジに取り組む。それがピッチングセンターをホイールベースの外側に設定した独自のサスペンション設計だった。
専門的な話になるので詳しい説明は省くが、通常は前後車軸間に設定されているピッチングセンターをホイールベースの外側に設定すると、ボディが上下するときの姿勢変化は、ノーズが首振りするようなピッチング挙動からフラットな姿勢を保つバウンス挙動に変わり、結果として乗り心地の快適性やハンドリングの正確さを実現できるという。
完成したCX-60は、たしかにピッチング挙動は小さく、ハンドリングは舌を巻くほど正確だったが、それと引き換えに乗り心地がひどくぎこちなく、路面からのショックをダイレクトに伝える傾向が強かった。これと、ギアボックスの変速ショックが大きいことがCX-60の弱点で、市場からは改善を求める強い声が寄せられたそうだ。
長らくお待たせして恐縮だが、ここからが本題、CX-80に関する試乗記である。