大谷 達也:自動車ライター
内燃機関車に対する私の基本姿勢
フルモデルチェンジを受けた新型A5は、アウディが久ぶりに放つエンジン車の最新モデルである。
試しに、最後に彼らがエンジン車をフルモデルチェンジしたのがいつだったかを調べたところ、2020年3月発表のA3であることがわかった(本国のメディアサイトに基づく。派生車種は除く)。
いっぽうで、その間もライバルのメルセデスベンツやBMWは続々と新型のエンジン車を放っていたので、その落差はいっそう激しいものに思えた。
アウディが新しいエンジン車を4年間にわたって投入してこなかった最大の理由は、彼らの電動化戦略にある。アウディは2026年以降に発売する新型車はすべてEVとするいっぽう、エンジン車の生産は2033年までに終了する方針をすでに発表しているのだ。
私自身は、電動化戦略に対して全面的に反対する立場ではないし、「EVであればなんでも歓迎する」というほど過激なEV信仰も抱いていない。いっぽうで、EVがCO2の排出量に役立つのは事実で、将来的にEVが主流になっても不思議ではないと思っているが、これを実現するには、顧客にとって魅力的と思えるEVを市場に投入することが何よりも重要だと信じている。だから、現時点でEVの普及が期待ほど進んでいないとすれば、それは魅力的なEVが少ないことに対する市場からの不満申し立てと捉えるべきというのが、私の基本的な姿勢である。
そんな私にとっても、アウディが長年エンジン車をフルモデルチェンジしていないことは心配だった。
不安を吹き飛ばす出来栄えだった
いくらEVシフトを強力に推し進めるといっても、2033年までエンジン車を生産し続けるなら、市場での競争力を保つためにも新型車の投入は是非とも必要なはず。そうした努力を怠るとは、これまで新技術の開発に積極的に取り組み、細部にまでこだわってクルマを作り続けてきたアウディに似つかわしくない。そんな観点からも、アウディが新型のエンジン車を投入しないことを不可解に思っていたのだ。
しかし、久しぶりに登場した新型のエンジン車は、予想を上回る完成度の高さで、私がそれまで抱いていた不安をすっかりと解消してくれたのである。
新しいA5の国際試乗会が催されたのは、フランスのニース近郊。もっとも、A5といっても、実質的には現行型のA4とA5を統合したモデルとの位置づけである。なぜ、そうなったかといえば、これまでアウディのモデル名は「数字が偶数はセダン系で奇数はクーペ/コンバーティブル系」とされてきたが、前述のとおり昨今は新しいEVが増えてきたため「偶数はEV系、奇数はエンジン車系」とモデル名の体系を改めたのである。
したがって新型A5にもクーペやコンバーチブルがあっていいのだが、とりあえずデビューしたのはセダンとアウディ流にアバントと呼ばれるステーションワゴンのみ。それ以外に、どこまでクーペやコンバーティブルが追加されるかは不明だが、少なくともコンバーチブルは登場しない見通しであるとの情報を試乗会場で耳にした。これも、今後登場するEVに様々な企業として様々な資源を投じなければいけない影響だろう。
ディーゼル4WDのステーションワゴンモデルから
最初に試乗したのはA5 アヴァント TDI クワトロ。アウディ好きであれば、これが「ステーションワゴンにディーゼル・エンジンを積んだ4輪駆動モデル」を意味することは、すぐにわかってもらえるはずだ。
A5に積まれる排気量2.0リッターの4気筒ディーゼルエンジンは、最高出力は204psで同じく排気量2.0リッターの4気筒ガソリンエンジンと横並びだが、最大トルクは400Nmでガソリンの340Nmを明確に引き離す。一般的にいって、最大トルクは常用回転域、最高出力は高回転域での力強さを表している。一般道を走っているとディーゼルのほうがガソリンより力強く感じることが多いのはこのためだが、新型A5のTDIモデルにはMHEVプラスと呼ばれる48V系マイルドハイブリッドを搭載している関係で、ディーゼルが苦手としていた発進時のもたつきも完全に解消。極めて完成度の高いパワートレインに仕上がっていた。
いっぽうの乗り心地は、現行型A4では速度域を問わずゴツゴツ感がつきまとっていたものが、しなやかにショックを吸収するタイプに一変。それでいてボディーをフラットに保つアウディらしさはそのまま継承されているので、高速道路などで疲れにくいだけでなく、ワインディングロードを走っても活発にコーナーを駆け抜けていけるハンドリングであることが確認できた。
マイルドハイブリッドがつかないガソリンモデルのセダン
続いてステアリングを握ったのはA5 セダン TFSI クワトロ。こちらはセダンボディーにガソリンエンジンを搭載した4WDモデルである。
ガソリンエンジンゆえに回転フィールが滑らかで静かなのは嬉しいのだが、もともとの特性からして常用回転域でのパンチに欠けるうえ、こちらはディーゼルと違ってMHEVプラスが与えられていないこともあり、発進時には意外なほど動きがおっとりとしていることに驚かされる場面もあった。いっぽうで、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンよりも重量が軽いため、コーナリング時の身のこなしは俊敏だが、それ以外の領域を含めた総合点ではTDIに一歩譲るように思えた。もっとも、価格面でもTDIがTFSIを上回るのは確実なので、その意味ではやむを得ない結果といえるだろう。