懸念される本格的な通貨危機

 一般的に、新興国の国債は信用力に乏しい。そのため、中銀に代表される新興国の通貨当局は、資産サイド(つまりマネタリーベース)に多くの外貨建て資産を計上し、その信用力の下で、通貨を発行する。順調に発展した先進国、つまり国際通貨を発行する国々は、この外貨建て資産に代わって、自国の国債が占める割合が高くなるのだ。

 話を元に戻すと、この通貨の信用力の源泉である外貨建て資産、つまり外貨準備のうち、ロシアが米欧日の中銀に預託している部分へのアクセスが、制裁によって遮断された。この外貨準備へのアクセスがいつ可能になるか、定かではない。

 つまり、バランスシート上の外貨建て資産の6割以上が実質的が利用できなくなった中銀が発行する通貨が下落するのは、当然の帰結となる。

 ところで、通貨当局であるロシア中銀は金融当局でもある。仮にロシアに金融緩和が意識される局面が訪れた場合、すなわち市中における現金であり預金を増やす局面に入った場合、ロシア中銀はどのようにして通貨の信用力を担保するのだろうか。人民元や金準備だけでは限界があるため、ロシア国債の買い入れは自ずと視野に入る。

 ロシア中銀のバランスシートを確認すれば分かるが、ロシア中銀の資産サイドにはロシア国債はほとんど存在しない。実態として、中銀が残存期間の短い国債を購入している可能性は否定できないが、信用力が低いロシア国債を担保にすれば、ルーブルの価値はさらに不安定になる。

 市中のマネーを増やすならば、国債を購入するしかないが、国債の購入は、原則として流通市場で行われる必要がある。直接市場(発行市場)で行われた場合、それはいわゆる財政ファイナンスに相当する。

 一度この道をたどると、中銀が際限なく国債を引き受けてしまう事態となりかねず、実際にそうなった場合、通貨の価値を著しく毀損するため、ロシアは本格的な通貨危機に陥ると懸念される。

 民間部門向けの債権を積み増す(つまり社債の購入や企業向けの融資)という手段もあるが、民間部門は基本的に、政府部門よりも信用力に劣るため、現実的ではない。むしろ、潤沢に存在する準備金を取り崩して、現預金に当てることのほうが理に適うのかもしれない。利下げではなく、現在4.5%の預金準備率を引き下げるという選択肢である。