「他人に知られたくない」
松原:はい。私が大学を卒業した20年前はもう少し学生にも若者らしい無邪気さとか、青春を楽しむ余裕があったように思いますが、経済的に厳しい環境に置かれている今の学生は目先の損得に非常に敏感で安定志向です。人生に一度しかないモラトリアムを利用して、留学したり、一人旅に出かけたりといった選択肢を最初から排除しているのです。
また、日本では学生がアルバイトをするのも「社会経験」として有益、という考えが根強く、本来勉学に集中するべき期間を生活費を稼ぐためにアルバイトで浪費してしまっています。奨学金を借りていたらなおのこと、バイトは必須でしょう。
もっとも、学生が現実に目を向けざるを得ないのも無理はありません。そもそも、奨学金を借りると決断するのは高校生の時であり、その年齢で将来のマネープランやキャリアプランを固めておけというのは酷だと思います。
一方、奨学金の業界には「情報格差」が存在します。現在は貸与型だけでなく、卒業後に就職した企業が肩代わりしてくれるものや、各財団の給付型奨学金なども増えています。JASSOの貸与型奨学金だけが奨学金ではないのです。
ところが給付型の奨学金の存在自体を知らない高校生・学生が大多数です。実際、某有名私立大学の学生が学内の200万円の給付型奨学金に応募したところ、応募したのは 2人だけだったとのことです。その学生は無事、奨学金を得ることができたのですが、本人は「他人には知られたくない」と明かしていました。知られたら倍率が上がってしまうからでしょう。逆に言えば、知らないことで給付型奨学金をもらうチャンスを自ら逃している学生がたくさんいるのです。
こうした状況を解消したいと考え、ガクシーでは1万6000以上の奨学金情報を掲載し、自分に合った奨学金を検索で探せるようにして「情報の非対称性」を解決し、「受給できるはずの給付型奨学金情報」へのアクセスを容易にすることを目指しています。
──貸与型の奨学金に関しては、リストラされた時や健康リスクを抱えた時などに返済が滞るリスクもあります。JASSOは取り立て業務の民間委託も始めており、借りている人はプレッシャーを感じているのではないでしょうか。