HTSを中心とする旧反体制派武装組織勢力が、シリア国民大多数からの政治的正当性を得つつ、諸外国からの正当な認知と国家再建にとって十分な支援を期待できるかは未知数である。だからこそ、シャラア以下HTSの閣僚たちも、本来自らが有しているはずのイスラム主義的なイデオロギーを一切表に出さず、極めて抑制的な言動をとっているとも言えよう。

 さらに、テクノクラートの数が圧倒的に少ないHTSを中心とする武装勢力が、果たしてシリア中央政府および地方政府の全体を十分に掌握できるか否かについてはそもそも疑問が残る。

 シリアは、伝統的にバアス党の下で社会主義的な体制を長らく続けてきた。これは、政治・経済社会全体が事実上シリア政府の管理下にある硬直化した体制であり、シリア国民もそうした社会主義体制に馴染んできたのである。したがって政府のトップや大臣のみを変えただけでは、政府機構全体を容易に動かせるわけでもない。

(2)困難を極める国民和解プロセス

 第二に、アサド政権下にあっては、シリア国民間の融和と和解のプロセスは、過去13年間一向に進まなかったが、逆に、HTSを中心とする暫定政権が、アサド政権を支持していたアラウィー派を含む多くのマイノリティとの間で、果たしてどれほどうまく融和や和解のプロセスを進められるかといえば、これも一朝一夕に実現するというわけにはいかないだろう。

 むしろ、アサド政権下で残虐な行いを行った人々に対する追及は、結果としてシリア社会のコミュニティの分断を深めることになろう。それほどまでにシリアにおける国民、就中、宗教や民族に加え、都市市民/郊外住民といった経済階層が異なるコミュニティ間の亀裂と分断は深い。

 例えば、現在、HTSによって、アサド政権支持者に対し、武器の回収を含め徹底的な掃討作戦が行われており、これが結果として、アラウィー派を中心とする地域の宗派主義的な感情を扇情し、社会的な緊張と分断も根深くなっている。逆に、アラウィー派の旧政権支持者によるHTSに対する復仇行為すら一部地域で見られている。

シリアのセドナヤ刑務所から釈放され、アサド追放後に行われた抗議デモに参加する人たち(2025年1月3日、写真:ロイター/アフロ)