トランプ氏や極右とマスク氏の蜜月は長続きしない?

 ロイター通信は今月9日関係筋の話として、マスク氏との友人関係が度々物議を醸している極右のメローニ首相率いるイタリアで、マスク氏所有のスペースXが総額15億ユーロ相当の5年契約について協議中と伝えた。

マスク氏(右)と友人関係にあるというイタリアのメローニ首相(左)(写真:ZUMA Press/アフロ)

 マスク氏の狙いが各国の極右やポピュリストを味方につけてビジネスを有利に展開しようという目論見であるならば、米国はもとより、イタリアでもそれは成功しつつあるのかもしれない。

 その上、どうやら日本もこのマスク帝国の触手が欧米のみに伸びている対岸の火事とたかを括っているわけにはいかないかもしれない。昨年末、マスクがトヨタの買収を試みたらどうなるかという恐ろしい考察を目にした。

 伝記や報道などを読む限り、マスク氏は自身の欲しいものは何がなんでも手中に収めたい強引な性格であるようだ。ロイター通信が一昨年調査報道で伝えた通り「火星で死にたい」との悲願実行のためなら、スペースX従業員に多くの死傷者が出ても構わないというなりふり構わぬ姿勢からも、それは読み取ることができる。

 トヨタ買収をマスク氏が望んでいるかどうかは別にしても、自身の目的達成のために日本に政治介入するという未来が絶対に到来しないとは言えないのではないだろうか。

 もっとも、マスク氏と極右との蜜月ぶりも、いつまで続くかは見ものである。

 実際、つい最近トランプ氏の私邸にうやうやしく招いて盟友関係をアピールしたばかりの英国の右派ポピュリストであるファラージ・リフォームUK党首には早々にダメ出しをしている。

 マスク氏は現在収監中の極右過激派をリフォームUKに取り込みたい考えだったようだが、さすがにファラージ氏はこれを拒否。そのことであっけなくマスク氏はファラージ氏を見限ったのか、党首にふさわしくないと突き放した。マスク氏が提示していたと見られる巨額の献金を棒に振った形のファラージ氏だが、一応、民主主義の総本山とも言える英国の政党党首としての面目は保ったようである。

 かつてありもしない大量破壊兵器を名目にイラク戦争を開始し、世界中から非難を浴びたブッシュ元大統領が、トランプ氏の登場で突然“善人”であったかのように錯覚してしまった現象に似ているが、あまりのマスク氏の悪目立ちぶりに、心なしかトランプ氏の影も前政権時代よりも薄くなったように思われる。

 グリーンランドやカナダの併合発言なども、自分がスポットライトを浴び続けたいがための大言壮語かと勘ぐりたくもなる。早晩この目立ちたがり屋の2人が内部分裂を起こして表舞台から姿を消すなどし、世界が秩序と精神の安定を取り戻す日が来ることを切に祈るばかりである。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。