「言論の自由」か「プロパガンダ」か

 プラットフォーム上で対談すること自体は、言論の自由のもと問題とはされない。一方で、DSAでは欧州連合(EU)域内で月間ユーザーが4500万人を超えるサービスには、選挙プロセスに関するリスクを軽減する義務を課している。

 問題となり得るのは、2億人以上ものフォロワーがいるマスク氏が自身のプラットフォームで行った対談で、ヴァイデル氏が他候補よりも多大な露出を得て選挙戦をより有利に戦えるという不公平が生じる可能性だ。

 さらに、欧州議会でDSAに関わるドイツ・緑の党のゲーゼ議員は、ドイツのXのタイムライン上に極右のプロパガンダをあふれさせる一方で、他者のコンテンツを埋もれさせるような意図的なアルゴリズム操作は問題だと指摘している。

 欧州では昨年11月、ルーマニアで行われた大統領選挙において、ほぼ無名の極右候補者がロシアによると見られる選挙介入で勝利した。投票の直近で突然2万件以上ものTikTokアカウントがゲリラ的な応援活動を実施したとされ、当局はこれらがロシアによるものとしている。この件も、欧州委員会がDSAに基づき調査した。

昨年11月のルーマニア大統領選の第1回投票で勝利した親ロシアで極右のカリン・ジョルジェスク氏。憲法裁判所が無効と判断するなど、混乱が続いている(写真:AP/アフロ)

 今やSNSによる選挙介入は日常茶飯事となりかねない勢いだ。しかし、ロシアによると見られる作戦が即座にロシアに結びつかないよう巧妙に仕掛けられているのに対し、マスク氏がXを駆使して行った今回の「選挙介入」は、あまりにもあからさまである。これも、次期米政権という虎の威を借るからこそできる芸当なのではないだろうか。

 実際、米ポリティコは欧州委員会が今後Xに対する調査や罰金を示唆することすら、次期米政権と欧州との間に深刻な対立を招きかねないというジレンマを指摘している。

 マスク氏が昨今欧州各地で極右にすり寄る様子は以前執筆した通りだが、ドイツで突如AfDの太鼓持ちを始めたのは、マスク氏がCEO(最高経営責任者)を務める電気自動車(EV)大手・テスラの業績に関係するとの見方もある。

 AP通信は今月、昨今テスラが欧州で苦戦し、特にドイツでは登録台数が44%も減少したと伝えている。一方で、APの取材に応じたアナリストによれば、マスク氏は各国の右傾化の波に乗ろうとしているのだという。現に、米国でマスク氏はトランプ氏に賭け、同氏の大統領選出でテスラ株は急騰した。